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色から探る鉄道貨物

        平成28年度入学 朝カゼ

 

 客車と同じように、貨物列車にも様々な色がある。個性豊かな貨物列車たちは、今日も日本全国を力強く駆けている。

かつて物流の中心を担った貨物鉄道だが、高速道路網の整備やトラック産業の規制緩和などにより、シェアの大半を自動車に取って代わられ、需要の低迷が長らく続いている。輸送重量(トンベース)を基準とすると、現在の鉄道の国内貨物輸送における割合は、わずか1%程度に過ぎない。

ところが、2016年度末決算で、JR貨物の鉄道事業が24年ぶりに黒字に転換し、大々的に報道された。近年、ドライバー不足や地球温暖化といった問題が発生する中で、トラック輸送の限界が指摘され、モーダルシフトの推進役として、鉄道貨物輸送が再び脚光を浴びようとしている。

 

本稿では、そんな貨物列車たちの素顔を、それぞれの「色」に着目して見ていきたい。貨物列車は、実はとてもカラフルだ。そして、その「色」の背後には、その運搬する貨物と、社会や産業との関わりが、深く刻まれているのである。

 

貨物列車の色には、列車が運ぶコンテナの色と、貨車自体の色がある。

現在主流となっている「コンテナ輸送」では、平らなテーブル上の貨車にコンテナを積載して運搬する。コンテナ輸送では、貨物列車の色は、コンテナの色である。第1章では、このコンテナの色について見ていく。

これに対し、かつて主流であったのが、「車扱」と言われる輸送形態である。これは、石油タンク車のように、貨車を1両単位で貸し切って運行するもので、貨物列車の色は、車両自体の色になる。第2章では、車扱における貨物列車の色について見ていくことにしたい。

 

1. コンテナ輸送

1)「JRFレッド」(赤紫色)

http://www.jrfreight.co.jp/transport/container/img/size_img01.jpg http://www.jrfreight.co.jp/transport/container/img/size_img10.jpg

 12フィートコンテナ http://www.jrfreight.co.jp/transport/container/img/size_img13.jpg

1. 赤紫色(と黄緑色)のJRコンテナ

(左下のみ国土交通省ホームページhttp://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000018.html

その他はJR貨物ホームページhttp://www.jrfreight.co.jp/transport/container/index.htmlより引用)

 

 「JRFレッド」と呼ばれる赤紫色のコンテナである。

 従来の青色のコンテナに代わり、この色に塗られたコンテナが登場したのが1992年。以後、JRのコンテナの主力として活躍している。2014年度製造分からは白色の横線がなくなった(図1右上)。一部、黄緑色のコンテナもあるが、これは、2009年にコンテナ輸送50周年を記念し、50年前の5tコンテナの色を模して、50個製造されたものである(図1左下)。

日本の鉄道コンテナは、12ft(フィート)5t(トン)コンテナが主流となっている。図1では、右下を除く3つがこの形式のコンテナである。右下のコンテナは、一部線区で利用されている20ftコンテナである。

コンテナには、汎用型コンテナのほか、生野菜の輸送などに使われる通風コンテナなどがある。

一見どのコンテナも同じように見えるが、開く側面や通風装置などには、様々なヴァリエーションがある。寸法の差異もあり、図1右上の写真のコンテナは、「背高コンテナ」と呼ばれ、通常の12ftコンテナよりも100mmほど高く、かさの高い貨物へ対応している(図1右上)。

 

 ここで上述の黄緑色のコンテナをよく見ると、地球と鉄道の絵が描かれた「エコレールマーク」が付いている。このマークの認定を行う鉄道貨物協会によれば、「エコレールマークとは、環境にやさしい鉄道貨物輸送に取り組んでいる企業や商品であると認定された場合に、その商品やカタログ等につけられる環境ラベルのこと」を指し、認定には一定の基準が設けられている(2017、同協会ホームページより引用)。

鉄道は、輸送単位当たりのCO2排出量をトラックの約10分の1程度にまで抑えられる。エコレールマークの表示は、商品が届くまでの過程を可視化することで、消費者の商品選択行動などを通じ、企業と消費者が一体となってモーダルシフト(輸送機関をトラックから鉄道や船舶などに切り替えること)を推し進めようとする取組の一環である。

 

 図12は、図1のコンテナとの逆塗装となっており、白地にJRFレッドのマークと横帯が入っている。これは、PCB(ポリ塩化ビニル)廃棄物を、北海道室蘭市にある廃PCB無害化処理施設へ収集運搬するための専用コンテナである。

貨物鉄道は、原料や製品、農産物などを運ぶだけに止まらない。図12のような廃棄物の処理施設への輸送も担っており、一般物資の輸送が動脈に例えられるのに対し、「静脈輸送」と呼ばれている。密閉性が高くなっており、廃棄物のコンテナに一般製品が混入することを防ぐために、コンテナには環境の「環」マークが付けられている。

http://www.jrfreight.co.jp/transport/service/img/vein_ph22.jpg 

12. 白色のコンテナに横帯はJRFレッド

JR貨物ホームページhttp://www.jrfreight.co.jp/transport/service/vein.htmlより引用)

 廃棄自動車のシュレッダーダスト(ARS)、自治体の焼却灰や下水汚泥、汚染土壌、医療系廃棄物、建設土砂など、鉄道によって輸送される廃棄物は多岐にわたる。それぞれに適した形状のコンテナが使われ、トラックと鉄道による一貫輸送が行われている。静脈輸送は、リサイクル化が進むほど広域輸送が必要となり、動脈輸送と比べ速達性も問題となりにくいこともあり、鉄道輸送に適していると言われる。

全国自治体で唯一、川崎市は家庭ごみの収集に鉄道を利用している。この列車は「クリーンかわさき号」と呼ばれ、人口の多い内陸部で発生したごみを、種類ごとに専用のコンテナに分別して臨海部の浮島処理センターの近くまで運搬する。トラックの清掃車ではなく、鉄道輸送を活用することで、排出ガスが削減されるだけではなく、交通渋滞を緩和する効果があるとされる。輸送状況は市のその都度のごみ処理環境と関わっており、一例として粗大ごみは、新しい処理施設が北部に完成することで、鉄道輸送が終了し、その後東日本大震災の瓦礫輸送コンテナに転用されるという道を辿った。

 

2)水色

http://www.jrfreight.co.jp/transport/container/img/size_img20.jpg http://www.jrfreight.co.jp/transport/container/img/size_img21.jpg

2. 水色の31フィートのJRコンテナ(引用元は図1と同一)

JR貨物は、鉄道へのモーダルシフトの目的として、「CO2排出量の削減」「道路渋滞の解消」「輸送効率の向上」「エネルギー消費量の節約」「少子高齢化に伴う労働力問題の解決」などを挙げる(2017、同社ホームページより引用)。また、モーダルシフトには、トラック運転手の長時間労働などの社会的問題の解決も期待されている。

 

2の水色の31ftウイングコンテナは、モーダルシフトの促進を目的として登場した。(1)で見た12ftコンテナは、10tが標準とされる大型トラックの半分程度の容量しかなく、輸送単位の不一致や鉄道からトラックへの積み替えの手間は、貨物鉄道の利用の妨げになっていると言われる。大型トラックと同等の積載容量を持つ31ftコンテナは、こうした問題に対処するために考え出されたものである。

 だが、その導入にあたっての障害の一つが非常に高額な導入費用であり、利用が大口の大手事業者に限定されるという問題があった。国土交通省は、平成24年度からJR貨物などの鉄道会社や運送会社に対し、31ftコンテナの購入費用の一部負担を開始し、普及を目指している。この取組は、環境省と連携しており、モーダルシフトの促進が期待されている。

 この31ftコンテナは、鮮やかな水色をしている。これは、モーダルシフトという政策を象徴する色と言える。

 

3)白色

http://www.jot.co.jp/service/img/container/01/item02_1.jpg

3. 白色のJOT (日本石油輸送株式会社)の冷蔵コンテナ「スーパーUR

JOTホームページhttp://www.jot.co.jp/service/container2.htmlより引用)

 一方、用途上の必要性から塗色が決まっているコンテナもある。その代表は、図3に見られるような白色の冷蔵コンテナや冷凍コンテナである。冷蔵コンテナのうち、冷却装置のない保冷構造のもののほとんどは、遮熱効果のある白色塗料が採用されている。農産品や食料品、化学工業品を主に輸送する。真空断熱パネルを使う「スーパーUR」(図3)は、特に高い断熱性能を誇り、ディ―ゼルエンジンを利用する冷凍コンテナに比べ、二酸化炭素排出量を半分以下に抑えられる。

 図12との違いは他にもある。図12JR貨物所有の「JRコンテナ」であるのに対し、図3は「私有コンテナ」と称される民間企業所有のコンテナで、荷主であるJOT(日本石油輸送株式会社)が保有している。私有コンテナは冷蔵・冷凍を始めとする特殊な機能を持ったものが多く、幅広いニーズに合わせた多種多様な設計が見られる。

 

4)ねずみ色

http://www.jot.co.jp/service/img/lng/photo02.jpg

4. 白色のLNGタンクコンテナ

JOTホームページhttp://www.jot.co.jp/service/lng.htmlより引用)

 図4は(3)と同様に私有コンテナだが、塗装は法令によって定められた色となっている。高圧ガス保安法の容器保安規則に基づき、図4LNG(液化天然ガス)タンクコンテナは、容器の表面積の1/2以上がねずみ色で塗られている。LNGは約−160℃という超低温状態を維持しなければならないため、魔法瓶のような二重構造が採られ、外殻と内側の耐圧容器の間は真空構造となっている。また、安全性を重視して、タンクコンテナは、鉄骨フレームによって補強されている。

LNGのコンテナによる輸送は、2000年に始まった。LNGは、新潟や苫小牧など国内のガス田や全国の沿岸部に広がる輸入基地から供給されており、クリーンエネルギーである上に、価格が安定していることから、需要が急速に高まっている。しかし、その裏返しとして、パイプライン網が拡大し、輸入基地の新設も進むことで、タンクローリーでの輸送の代替としての鉄道の優位性が失われ、近年鉄道輸送を終了する区間も現れてきている。だが、都市ガスの原料でもあるLNGは災害時にも欠かせないため、複数の輸送モードを確保しておく必要性も指摘されている。

 

5)黄色

http://www.nrsgroup.co.jp/service/menu/transport_container/images/jr_ph04.jpg

5. 液化塩素専用の黄色のJRタンクコンテナ

(株式会社日陸ホームページhttp://www.nrsgroup.co.jp/service/menu/transport_container/jr.htmlより引用)

 図5の液化塩素コンテナも上のLNGタンクと同じように、容器保安規則の指定対象となっており、黄色で塗色されている。同規則の指定色は高圧ガスの種類によって異なり、表1に示す7色に分けられている。タンクの側面にある銀色の箱は、左の1個が苛性ソーダ溶液、右2個が石灰箱であり、有毒の塩素が漏洩した場合に備えて中和できるようになっている。

高圧ガスの種類

塗色の区分

酸素ガス

黒色

水素ガス

赤色

液化炭酸ガス

緑色

液化アンモニア

白色

液化塩素

黄色

アセチレンガス

かつ色

その他の種類の高圧ガス

ねずみ色

1. 高圧ガスの種類による塗色の区分

(容器保安規則第101項表に基づき、筆者が作成)

塩化水素は日豊線の南延岡で旭化成が製造し、北九州貨物ターミナルまで輸送された後、そこに鹿児島線の黒崎から三菱ケミカルの濃硝酸が運ばれ、三井化学の大牟田工場まで継走する。これらは「延岡貨物」「大牟田貨物」などと呼ばれ、大牟田工場で、ポリウレタンの原料イソシアネートの合成に利用される。

塩化水素のコンテナ数や輸送頻度は同工場の生産状況に左右されるため、イソシアネート事業の海外移転に伴い、輸送量は減少している。2009年に塩化水素輸送は、タンク車から中小量輸送に適したコンテナに移行した。(5)と同様、産業構造の変化が輸送機関に影響を与える例と言える。

 

6)白色タンクとカラフルなフレーム

11,000Pタイプタンクコンテナ 14,000Pタイプタンクコンテナ

17,500Pタイプタンクコンテナ 21,000Pタイプタンクコンテナ

24,000Pタイプタンクコンテナ 26,000Pタイプタンクコンテナ

6. カラフルなフレームを揃えるISOタンクコンテナ

JOTホームページhttp://www.jot.co.jp/service/chemicals_d2.html#cont05より引用)

6のタンクコンテナも、主に化成品の輸送に使われるタンクコンテナである。タンク容量の違いによって、フレームの塗色が表2のように分けられている。図6の上2つの紫色と濃緑色のコンテナ枠下部には、「5tフォーク使用禁止」と書かれており、黄色とゼブラ模様で注意を促している。さらに、安全性を確保するために、内部に防波板、上部の全周に歩み板などを装備している。

タンク容量

フレームの塗色

11,000L

紫色

14,000L

濃緑色

17,500L

オレンジ色

21,000L

緑色

24,000L

青色

26,000L

赤色

2. 容量ごとに異なる塗色

JOTホームページ(同上)に基づき、筆者が作成)

 図6のコンテナは、「ISO(国際標準化機構)規格コンテナ」と呼ばれる。ISO規格コンテナには、20ft40ftのタイプがある(図6はいずれも20ftで、国内向けのタンクコンテナ)。世界基準に合わせた仕様となっており、主に国際海上輸送が目的とされている。トラックや鉄道による輸送も可能なため、荷物を入れ替えることなく複合一貫輸送ができる上、新製価格も安いことから、化成品輸送などで需要が高まっている。

1989年に国内で初めて導入され、横浜博覧会期間中の道路渋滞の緩和を目的として、横浜本牧―東京貨物ターミナル間で運行した。それに対し、本格営業が始まったのは、1995年からである。国内産業の縮小に応じ、輸出入貨物の国内輸送を鉄道に取り込もうという狙いがあったとされる。

 

7)銀色

http://www2.sagawa-exp.co.jp/uploads/resources/newsrelease/2016/Image/20160208_514999.jpg

7. 佐川急便の銀色のカラーリングのコンテナが目を引く「スーパーレールカーゴ」

(佐川急便株式会社ホームページhttp://www2.sagawa-exp.co.jp/newsrelease/detail/2016/0208_1084.htmlより引用)

 鉄道による国内輸送は、現在でも東海道・山陽線等を経由する首都圏―福岡間で最大となっている。一方、東京―大阪間の輸送については、かつては鉄道が入り込む余地はほぼないと考えられていた。国内の二大都市を結ぶ区間で需要は大きかったが、輸送時間が障壁となった。東京から大阪は500km圏内という中距離帯にあたり、積み替えなどの時間を含めても高速道路を使ったトラックの方が鉄道よりも速かった。そうした物流の常識を覆したのが、JR貨物と佐川急便が共同開発した、世界初の特急コンテナ電車「スーパーレールカーゴ」である(図7)。

 高速化を実現するために、16両編成のうち4両を電動車とする電車方式が考案された。貨車の全編成を先頭の1両の機関車が牽引するという貨物列車の在り方からは考えられないような構想で、最高時速は従来の110kmから130kmにまで上がり、高速化を達成した。曲線部の通過速度も上がり、東京貨物ターミナル−安治川口(大阪市)間を6時間12分で結び(20173月ダイヤ改正時点)、所要時間を機関車牽引の場合と比べ1時間短縮できるようになった。これは、東京―大阪間の歴代のどの在来線よりも速いスピードであり、トラックと同等化したとされる。その上、動力が分散するため、従来のように機関車1両の重量が集中することがなく、線路にかかる負荷も小さくなる。『トラベルMOOK 貨物列車の世界』の記事「物流に革命をもたらした斬新な高速列車 スーパーレールカーゴ」(松尾よしたか、2017)は、「モーダルシフトの最先端」と位置づけ、以下のような興味深い示唆をしていた。

 

現時点で「スーパーレールカーゴ」は1往復のみの運転で、途中で機関車牽引の高速列車を追い抜くダイヤになっている。同様の電車方式による貨物列車を複数設定し、併行ダイヤを組むことができれば、鉄道貨物輸送全体として、いっそうの効率化となることだろう。コストも低減され、トラックに対する競争力も向上するなど、さらなる好循環につながる可能性もある。(同記事p.9より引用)

 

 技術革新だけではなく、輸送システムにも様々な工夫が施されている。予め発送地側で到着地の配達店ごとに荷物を集約する方法(発集約直行便)を採り、それぞれ東京貨物ターミナル駅の敷地内の施設と安治川口駅から5分以内の施設でコンテナを仕立て、輸送時間の更なる短縮が図られている。また、宅配事業として時間の正確性も重視されるため、列車が定刻通りに輸送できない事態が生じた際、トラック輸送へ振替えられるように対策されている。鉄道事故が起きた場合に備え、運転区間内に「スーパーレールカーゴ」が乗り入れられる5か所の拠点駅を作ったり、悪天候の時に予め早い段階で列車の運休を判断するために、JR貨物は株式会社ウェザーニューズと提携し、気象情報やデータを収集したりしている。

2004年から営業運転を開始した「スーパーレールカーゴ」は、トラック輸送からのモーダルシフトによって年間でCO214,146t削減することに成功し、2005年に「物流環境負荷軽減技術開発賞」を受賞した(社団法人日本物流団体連合会の第6回「物流環境大賞」部門)。同年、鉄道友の会のブルーリボン賞にも、貨物車両の中で初めて選ばれた。

 

8)濃緑色

 

8. 当初「みどり号」の愛称を付けられたスーパーグリーン・シャトル列車の31ftコンテナ

(グリーン物流パートナーシップ会議ホームページhttp://www.greenpartnership.jp/pdf/active/kaigi/05/haihu/handout5-2.pdfより引用)

 「スーパーレールカーゴ」は、JR貨物と佐川急便というように鉄道会社と企業が連携することで、モーダルシフトを実現した例である。モーダルシフトを進めるにあたっては、鉄道会社・運送事業者だけでなく、それを利用しようとする(荷主となる)企業自体の取組が不可欠である。

「スーパーグリーン・シャトル列車」は、複数機関の協働を更に発展させる画期的なシステムである。図831ftコンテナ(高さ2,065mmのコンテナの上端帯は黄色、高さ2,773mmだと上端帯は水色)であるが、「スーパーグリーン・シャトル列車」は、この31ftコンテナを20個載せて走る。グリーン物流パートナーシップ会議のモデル事業として、国土交通省からの補助を受けて、2006年に東京―大阪間で運行を開始した。

 

「スーパーレールカーゴ」のように、鉄道を利用する企業がJR貨物の列車を買い上げて運行する列車を「オーダーメイド列車」と呼び、同様のものとして「福山レールエクスプレス」(福山通運)や「TOYOTA LONGPASS EXPRESS」(トヨタ自動車)などがある。

これとは反対に、「スーパーグリーン・シャトル列車」では、レディメードの考え方で、鉄道利用運送事業者の日本通運と全国通運が31ftコンテナを所有し、不特定多数の荷主やトラック業者に輸送枠とコンテナを一体的に貸し出すというシステムが採られている。

この事業を推進したグリーン物流パートナーシップ会議は、「物流分野のCO2排出削減に向けた自主的な取り組みの拡大に向けて、業種業態の域を超えて互いに協働していこうとする高い目的意識のもと、荷主企業(発荷主・着荷主)と物流事業者が広く連携していくことを促進すべく運営」されている(2017、同会議ホームページより引用)。この例では、JR貨物・日本通運・全国通運・全国通運連盟の共同事業となっている。

従来、中小企業が、31ftコンテナを使ってモーダルシフトを行うことは困難だった。(2)でも触れたが、初期費用が高いだけでなく、一つの企業だけでは往復輸送の需要がないことが多いため、片道輸送にしてコンテナを返送するとすればコストがかかりすぎること、往復輸送をするにしても他の業者とのマッチングが難しいこと、発送頻度が高くない場合に輸送枠を確保しづらいなど、多くの課題があった。「スーパーグリーン・シャトル列車」は、これらの問題を解決し、利用回数の多少に関わらず、誰でも簡単にコンテナを共同利用できるオープン参加システムを構築した。大企業に限定されていた31ftコンテナ利用のハードルが中小企業にも下がり、より多くの企業がモーダルシフトに取り組めるようになった。

多様な輸送モードとの連携、さらには運輸事業者を超えた様々な企業・主体との連携ということが、鉄道貨物の将来を考えていく上で、重要なキーワードになるものと思われる。

 

2. 車扱輸送

1)緑と灰色

9. 緑と灰色のJOTの石油タンク車(JR八王子駅 2016.08.29)*筆者が撮影。

 1章ではコンテナ輸送を見てきたが、この章では車扱輸送に注目する。ここでは、貨車そのものの色が「貨物列車の色」となる。

9の緑と灰色の石油タンク車は、45t積み・最高時速95kmの最新形である(タキ1000系)。JOT(日本石油輸送株式会社)が所有する貨車で、車扱輸送の主力選手となっている。従来のタンク車から時速20kmほど高速化しており、編成単位で揃えて運用されることがほとんどである。

 

車扱輸送は、コンテナ1両ではなく、タンク車などの貨車1両を丸ごと輸送単位とするもので、石炭や石灰石、セメント、石油(これらはまとめて「4セ」と呼ばれていた)などの原料、工業品や農産品など幅広い輸送を扱い、かつては鉄道貨物の中心を担っていた。しかし、いわゆる重厚長大型から軽簿短小型へと産業構造が変化したことや、産業の空洞化で工場の海外移転や輸入が増加したことにより、車扱輸送の需要は急速に減少し、1990年代頃には車扱からコンテナ輸送へと鉄道貨物輸送体系の転換が進んだ。

2015年度現在、全国の鉄道貨物輸送に占める車扱の割合は、トンベースで42.7%、トンキロベースでは7.3%となっている(参考:国土交通省『鉄道輸送統計年報 NO. 29 平成27年度分』)。車扱はコンテナに比べ、重量の大きい貨物を比較的短距離で輸送しているため、トンキロベースの割合がかなり低くなっている。JR貨物の2011年度実績では、コンテナと車扱の輸送物資の内訳は、以下のように分かれている(表3)。

3. JR貨物が全国に運んでいる物資(2011年度実績)」

(国土交通省ホームページhttp://www.mlit.go.jp/common/000214601.pdfより引用)

 

3のように、現在の車扱輸送の7割を石油が占めている。石油の国内鉄道貨物輸送の歴史は1893年にまで遡り、神戸で輸入した灯油を輸送するためにイギリスから車両を輸入したのが日本のタンク車の始まりである。かつては、国内原油が採掘できる新潟・秋田地区からの輸送(2001年に男鹿線の脇本―船川港間を最後に終了)も行われていた。

現在の車扱輸送は、海外から輸入した石油を臨海部から内陸部へ運ぶものが中心となっている。これは、原油を海外から輸入し、太平洋ベルト上の臨海部にある製油所から内陸部の油槽所への製品輸送を鉄道、その先の各地のガソリンスタンドや工場への輸送は自動車が担うというスタイルで、鉄道輸送は自動車と組み合わせて利用されている。道路網の整備が進んだことで、タンクローリーによる直送化が増えているが、低環境負荷や定時性、長距離大量輸送を低コストで行えるなど、鉄道にも一定のメリットがある。

しかし、産業構造や景気の動向に深く依存する石油輸送は、内陸の油槽所の廃止や製油所の石油化学工場への転換(北海道内の鉄道輸送はこれらを理由として終了した)、天然ガスや電力への燃料転換・石油価格の高騰化による石油の需要減など、様々な要因による影響を受けやすい。石油の鉄道輸送量は徐々に減少傾向にあるが、それに応じ、石油列車にメタノールコンテナや国際海上コンテナなどのコンテナ車を増結し輸送力の余剰を活用するといった新しい試みも見られる。

 

2)黒色

http://www.jrf-hokuriku.co.jp/img/news/051201/img002.jpg 20140829 shiki

10. 黒色の大物車シキ

(左はジェイアール貨物・北陸ロジスティクス株式会社ホームページhttp://www.jrf-hokuriku.co.jp/

右は恵知仁の記事(乗りものニュースホームページhttps://trafficnews.jp/post/35991/2/)より引用)

 車扱輸送は、図10のような黒色の大物車によって、通常の貨車には載せられない特大貨物の輸送も行っている。発電機やロングレール、車両の車体(「乙種鉄道車両輸送」と呼ばれていた)なども運ばれていたが、現在では大型変圧器の輸送がほとんどである。

大物車には低床式、吊掛式、落とし込み式、分割低床式と4種類あり、用途に応じて使い分けられている。吊掛式は、最も重い物を載せることができる。荷受梁を前後に分割して、ヒンジとピンを貨物に取り付け梁に吊掛けるタイプで、変圧器の大きさによって全長が変化し、シキ610611B1240t積で変圧器によっては全長が約43mにも及ぶ(高橋政士「貨物輸送のチャンピオン 特大貨物輸送」(『トラベルMOOK 貨物列車の世界』、2017))。

 

ここまで見てきた貨物列車は、主としてJR旅客会社の保有する線路上をJR貨物が運行するという形態のものである。日本の鉄道貨物輸送にJR貨物が占める割合は、トンキロベースでは99%以上であるが、トンベースでは7割程度となる(国土交通省発表の「鉄道統計年報[平成26年度]」を基に計算)。残りの貨物輸送を担うのが、第三セクターの臨海鉄道10社とその他の民鉄の11社である。

1)で見たように、JR貨物では、石油のタンク輸送以外はコンテナ列車の全国規模での長距離輸送が大部分を占めている。また、第三セクターの臨海鉄道も、臨海工業地域への輸送を目的とするため、コンテナ列車の短距離輸送が多くなっている。臨海鉄道は、臨海工業地域の開発に併せて、旧国鉄、地元地方公共団体、沿線への進出企業が共同出資して設立された第三セクターで、幹線への接続部の短距離輸送を主として担っている。現在営業を行っているのは、京葉臨海鉄道、神奈川臨海鉄道等の10社である。

一方、それ以外の民鉄では、秩父鉄道、岩手開発鉄道、太平洋石炭販売輸送等の11社が貨物営業を行っている。これらは、現在でも、車扱列車による沿線の特定企業への資源輸送がメインとなっており、JR貨物では下火となった石灰石や石炭、セメントなどの輸送を行っている。国内貨物輸送に占める民鉄の割合が、トンキロベースに比べトンベースの方が大きくなっているのは、民鉄が、重量物の比較的短距離の輸送を主として担っているためである。

 

 民鉄の貨物輸送を代表して、秩父鉄道を見たい(図11)。秩父鉄道は、トンキロベースで、2位の岩手開発鉄道を3倍近く引き離し、国内の民鉄貨物の中でトップの輸送量を誇る(国土交通省、「鉄道統計年報[平成26年度]」)。

 秩父鉄道の貨車の色は、「黒」である。これは、秩父鉄道の輸送の大部分を占める、石灰石を運搬する貨車の色である。秩父鉄道は、コンテナ貨物輸送もわずかに行っているが、大部分は、セメントの原料となる石灰石を、太平洋セメントの熊谷工場へと運搬する車扱の輸送である。

 

コンテナ輸送に押されつつある車扱輸送は、むしろ、民鉄にかつての活気を残しているとも言える。秩父鉄道でも、鉱山からのベルトコンベヤー開通により一部ルートが廃線になり、また、製品となるセメントの鉄道輸送が終了するなど、時代の流れとともに輸送量は減少傾向にある。しかし、自社線主要区間を走行して到着する石灰石列車は、現在も1日最大11往復設定されており(渡辺一策「観光SL列車と両立する魅力のヲキ編成 秩父鉄道の石灰石列車」、『トラベルMOOK 貨物列車の世界』、2017)、秩父の山野を疾走する黒い車列の勇壮な姿は、今なお健在である。

 

 

11. デキ108に牽引される秩父鉄道の黒色の石灰石列車(返空)

(樋口―野上間 2017.02.10)*筆者が撮影。

 

4. 参考文献

『鉄道ピクトリアル 20001月号』(鉄道図書刊行会・200011日発行)

『鉄道ピクトリアル 20081月号』(鉄道図書刊行会・200811日発行)

『鉄道ジャーナル 20055月号』(成美堂出版・200551日発行)

『鉄道ジャーナル 20102月号』(成美堂出版・201021日発行)

『鉄道ジャーナル 20156月号別冊 最新 貨物列車2015

(成美堂出版・201561日発行)

『鉄道ジャーナル 20159月号』(成美堂出版・201591日発行)

『鉄道ジャーナル 20178月号』(成美堂出版・201781日発行)

2017貨物時刻表』(公益社団法人鉄道貨物協会・2017314日発売)

『トラベルMOOK 貨物列車の世界』(交通新聞社・201781日発行)

「国土交通省 鉄道 我が国の貨物鉄道輸送」

http://www.mlit.go.jp/common/001009894.pdf2017108日閲覧)

「国土交通省 鉄道輸送統計年報 NO. 29 平成27年度分」

http://www.mlit.go.jp/k-toukei/10/annual/index.pdf2017108日閲覧)

「国土交通省 JR貨物が全国に運んでいる物資(2011年度実績)」

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「国土交通省 鉄道統計年報[平成26年度]」

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「日本貨物鉄道株式会社 JR貨物について 財務情報」

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「日本貨物鉄道株式会社 鉄道貨物輸送サービスのご案内」

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「日本貨物鉄道株式会社 JRコンテナ形式別一覧表」

http://www.jrfreight.co.jp/common/pdf/other/container.pdf

2017108日閲覧)

「日本貨物鉄道株式会社 環境を考えれば鉄道貨物輸送」

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「公益社団法人鉄道貨物協会 エコレールマーク事務局」

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