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九州の発展と車両デザイン・色彩の変化との関連

平成29年度入学 広ヒジ

 

はじめに

 JRグループが発足して2017年で30年となり、各グループ会社はそれぞれに記念企画を打ち出している。このJR発足後の30年で、日本の旧国鉄路線網は非常に大きな変化を遂げた。民営化が過疎地方のサービス低下を招く、地域単位で分断され各地域間同士の交流が薄くなる、などの批判は根強いが、かつての在東京国鉄本社による中央集権・官僚主義的な画一的鉄道運営から、地域の特色に根ざした経営戦略の下、多種多様な車両やより洗練された地域密着型サービス、さらには鉄道事業と密接に関連させた関連事業の高度な発達など、民営化による高サービス志向に転換したことは、JR化の大きな成果といえよう。2016年には、所謂三島会社の中でいち早くJR九州が完全民営化を達成したのは、こうした地域密着型経営への転換及び鉄道事業以外の副業への比重の度合いを高めたのが要因として大きい。

 JR九州の特徴として挙げられるのは、やはりあの独特な車両デザインであろう。水戸岡鋭治氏の手による設計は特急用車両から通勤用車両に至り、その奇抜かつ秀逸なデザインはJR九州の地域独自性を極めて強調しまたその認知度を高めていると共に、九州旅客鉄道株式会社の経営戦略上非常に大きな地位を占めている。

 このレポートは、JR九州がその発足後如何に「九州会社」としての独自性を発揮していき、そして水戸岡氏との邂逅と、彼が車両に与えたデザインや色彩がJR九州の車両に、そして経営にどれだけの影響を与えたのかを、JR九州の各車両を詳しく説明していきながら検証していきたいと思う。

 

 2.  JR九州発足直後の状況とハイパーサルーンの登場

 国鉄が分割民営化された当時の九州の鉄道は、大変な危機的状況に直面していた。全国的な地方ローカル線の衰退に伴う佐賀線や志布志線などの過疎地域路線の廃止もさることながら、九州の鉄道の原点でありその発展を支えてきた筑豊炭田が衰退、石炭輸送の需要が激減したことで北九州の鉄道網は急速な縮小を迫られていた。国鉄の財政的窮乏のために新車の投入や電化といった設備投資は遅れ、需要が見込める都市近郊路線の開発に着手できない、車両が足りず特急用・急行用車両を改造した間に合わせの車両で対応せざるを得ないといった末期的状況が続き、高速バスが台頭している中で、こうした環境がまた更に鉄道の競争力を大きく減退させているのだった。

 JR九州が発足した後、この現状を憂えた会社側は素早く行動した。増便や新駅設置に伴うサービスの大幅改善を行い、同時に新生九州鉄道のフラッグシップとなる車両を投入した。「ハイパーサルーン」783系である。JRグループの中でいち早く登場したこの新型車両は、従来の特急用車両の概念を大きく覆す流線型のパノラマカー仕様で、しかも従来よりも10km/h も最高速度を上げた130km/h 運転を可能にした。この当時としては異次元のデザインは、鉄道の新時代を告げる嚆矢となったと共に、JR九州の経営方針を決定づけたと言っても過言ではあるまい。台頭する高速バスに宣戦布告し、低サービスだった国鉄時代との決別を、この車両の投入で示したこととなった。更にJR九州の経営の基盤となる福岡・北九州近郊地区のサービス向上の為に811系近郊型電車を投入。国鉄時代の車両とは趣を全く別にしたこの車両もまた、福岡・北九州地区の都市型ダイヤ(=比較的短い編成の車両を高頻度で走らせることで鉄道の利便性を大きく向上させるダイヤ)の構築に大きく貢献することとなる。

 当時のJR各社は、バブル時代という世相を反映してジョイフルトレインと呼ばれるイベント用の鉄道車両を多く保有しており、観光資源を多く持つ九州島内では特にそうした車両が好まれたこともあって、多様な車両が開発された。長崎オランダ村(現:ハウステンボス)への観光輸送特急用車両兼ジョイフルトレイン車両として開発された豪華車両であるキハ1831000番代「オランダ村特急」や、湯布院・別府温泉への観光輸送を目的とした、深緑で包まれた流麗なデザインを持つキハ71系「ゆふいんの森」は、こうした観光用車両の筆頭である。ジョイフルトレインとして特筆すべきなのは、福岡市の近郊に位置し、海浜公園近くを走る香椎線用に充当された「アクアエクスプレス」である。これは水戸岡鋭治氏が初めて手がけた鉄道車両であり、ロゴを車両各部に貼り付け、白と黒のみで構成されたシックなデザインはまさに彼の特徴的なデザインの原点と呼べるものである。また、1988年には、阿蘇の観光振興や九州島内でのSL復活を目的としたSL列車「あそBOY」号がスタート。この列車がのちにJR九州の各路線を走る観光列車の事実上の始祖であるといえよう。

 

 3. 都市近郊路線の大規模再開発・「特急街道」への道

 JR九州は、本業でも副業でも躍進を遂げるようになっていった。1990年には福岡−釜山を結ぶ国際航路ビートルの就航、91年には熊本駅の駅ビル完成などを取り上げることができる。鉄道事業でも、90年には水戸岡鋭治氏らによる設計の元、篠栗線などの都市近郊非電化路線のサービス改善を図ったキハ200系を投入したほか、783系投入によって発生した既存の特急車両との格差改善のためのアコモデーション改善が、これまた水戸岡氏らの手により達成された。

 1993.年、ついにJR九州を代表する有名な車両が世に出された。787系「つばめ」である。この車両は、水戸岡鋭治氏のデザイン嗜好がふんだんに盛り付けられており、黒を基調としたモダンで落ち着いた外装や内装に、個室席や専門の客室乗務員まで用意しており、国鉄初の特急列車の愛称を冠するにふさわしい高度なサービスを提供する、まさにJR九州のフラッグシップ列車であった。この車両を充当した特急「つばめ」は、博多−西鹿児島を結ぶJR九州の最高位列車として九州島を縦断する非常に大きな役目を担うこととなった。「つばめ」はその愛称が示すようにJR九州の社運を賭けたプロジェクトであり、水戸岡氏のこの卓越したデザインは、「人の目に映り、惹きつける車両」という企画達成上の観点から見て、プロジェクト成功に大きく寄与したことは明白であろう。

 近郊型列車でも、新たに813系近郊型電車が投入された。福岡都市圏に大量に投入されたこの車両もまた水戸岡氏が手がけており、JR九州のコーポレートカラーである赤と、ステンレスの銀を対照的に映し出し、黒をアクセントに添えたこのカラーリングは非常に鮮やかで人目を引くものである。車両の多さも相まって、JR九州といえば先ほどの787系かこの車両を思い浮かべる人が多いことだろう。

 97年には再び水戸岡氏が手がけた883系「ソニック」(博多−大分)がデビューする。813系とは逆に、青と銀を非常に強調した外装に、特徴的なデザインが施された座席・内装を備えたこの車両もまた利用者に強烈な印象を与え、博多−大分間の振り子装置を使った高速化も相まって一躍人気車両に躍り出た。

 99年には、水戸岡氏ら自身の手法を用いてキハ71系のデザインを発展させたキハ72系「新ゆふいんの森」がデビュー。更には近郊・通勤電車でも動きがあった。豊肥本線の熊本都市圏区間が電化され、熊本地区に815系近郊型電車が投入された。筑肥線でも、筑前前原までの複線化完成に伴う増発用として、303系通勤型電車が投入された。両者はともに813系で用いられた赤と銀と黒のカラーリングを継承しており、JR九州の都市圏車両の当時の基本色だったことが伺える。

 2000年になると、白一色で覆われた外装と木目調をベースに白と黒を用いた内装を、その流麗な曲線美を伴って採用した885系「白いかもめ」(博多−長崎)がデビュー。ドイツの高速列車ICE3のデザインを思わせる(水戸岡氏とICE3のデザイナーアレクサンダー氏(あの有名な新幹線500系も担当)は実は友人であり、関連がないとはいえない)その外見に度肝を抜かれた利用者は多く、これまた人気の高い車両である。製造を担当した日立製作所は、この設計を元に台湾向けTEMU1000型電車「太魯閣(タロコ)号」を製造している。

 白いかもめのデビューに伴い余った「かもめ」用783系は水戸岡氏がリニューアルを手がけ、佐世保行き「みどり」用に緑色と銀色を基調とした編成を、ハウステンボスへ行く「ハウステンボス」用には銀色のベースの上に赤色を主にカラフルに仕上げた編成を用意し、それぞれ投入した。翌年には白いソニックとして885系が大分方面にも投入され、こうして博多駅を中心とする、JR化以降の車両による特急の超頻発運転区間、通称「特急街道」が完成した。長崎本線の特急と鹿児島本線の特急が同じ線路を走る博多〜鳥栖間では、特急だけで一時間に最大8本走っており、その間を普通列車が縫うように最大10本走るという超過密区間となっていた。JR九州は特急利用客の増加を図るために2枚きっぷなどのサービスも進めており、その特急重視の姿勢から「JR九州といえば特急」と呼ばれるようになる。この姿勢は2017年になっても変わっていない。こうした特急の利用を促進し、かつブランド力を強化させていったのは、やはり水戸岡氏の独創的なデザインセンスによるものが大きい。JR九州側の宣伝戦略に非常に大きく関わってくる以上、彼の貢献は計り知れない。

 2001年になると、同じ水戸岡氏の手によるものだが、少し趣の異なる車両を登場させるようになる。福岡都市圏のベッドタウン路線として篠栗線・筑豊本線を再編成した「福北ゆたか線」用に投入された817系近郊型電車である。「CTCommuter Train)」の愛称を持つこの車両は、これまでの赤色を重視したデザインを廃し、前面の黒と側面の銀を際立たせる外装と木目調を意識したクールで落ち着いた印象を与える内装を擁し、その現代的でヨーロピアンな車両は北九州の近郊通勤・通学路線に新風を与えるものとなった。817系はのちに長崎本線や福岡・熊本・鹿児島・宮崎の各都市圏地区にも充当されるようになり、JR九州の新標準車両としての地位を確立している。老朽化した国鉄車両を置き換え、清潔で美しくモダンな車両に変わったことで、サービス改善にどれだけ寄与したかはもはや言うまでもないだろう。885系や817系に採用された木目調・白や黒といったカラーリングは、のちの九州管内における「水戸岡デザイン」にとっても重要なカギとなることからも、これらの車両は一つの転換点だったのだろう。

 

 4. 九州新幹線開業・観光特急化

 2004313日、JR九州の歴史、九州の鉄道の歴史、そして九州島そのものの歴史に偉大なる軌跡と大きな転換点が訪れた。九州新幹線が新八代−鹿児島中央の間で開業し、小倉−博多という福岡県北部のみ走っていた新幹線が、ついに南九州に登場したのだった。博多駅まで全線開通はしておらず、博多−新八代の間は「リレーつばめ」と呼ばれる787系の接続特急で急場を凌がざるを得なかったものの、それでも八代−川内の線形が悪く速度上のネックだったこの区間の高速化が実現したことで、博多と鹿児島はかなり近くなった。

 この時登場した新幹線800系は、水戸岡氏が手がける初の高速鉄道車両として、注目に値すべき車両である。車体を白く塗り、ツバメの飛行軌跡をコーポレートカラーの赤色で表現し、「つばめ」と大きくひらがなでドア横に描かれたロゴが特徴的である。内装も従来の東海道・山陽新幹線用の車両の雰囲気とは全く異なり、セオリー通りにシックな木目調を使用、座席に西陣織のモケットを採用し、クスノキやサクラの木材を取り入れ、ドアを赤漆色に、デッキを柿渋色に塗るといったように非常に雅なものとなっており、観光がメインの新幹線として申し分ない構成となっている。窓のブラインドが木製であったり、洗面台にイグサの暖簾が付いているなど、その和風さは徹底されている。

 JR九州は九州新幹線開業+鹿児島本線新八代−川内の三セク化という大変革に即して、特急列車の再編を図った。特急「九州横断鉄道」「ゆふDX」特別快速「なのはなDX」などがあるが、その中でも特筆すべきなのは肥薩線の特急「はやとの風」、普通(2017年現在は特急列車)「いさぶろう・しんぺい」である。この二つの列車に充当された列車は新車ではなく、むしろかなりの古株の車両であったキハ40系列の改造車なのである。普通の発想ならばこのような古い車両を特急に充てるなど前代未聞であろう。これまでにもキハ40系列の改造車は多々あったものの、前面部などを換装しておりそれと分からないようにはしてあったが、JR九州の場合はそうした外枠構造にあまり変更を加えずに投入したのである。しかし、水戸岡鋭治が手抜きをして型落ち特急などを用意するはずもなく、むしろJR九州の新たなローカル線活用計画の嚆矢として打ち立てられた車両なのである。「はやとの風」用に改造された車両は漆黒に塗装され、重厚感あふれる印象となっている。内装はキハ40の老朽化した陳腐なそれとは一線を画しており、木目調を多用した和風な仕上がりとなっており、雄大な山岳地形の織りなす荘厳な車窓を存分に堪能できるよう観光特急らしく大窓と木の机からなる展望スペースが用意されている。「この列車に乗ること自体を旅の目的とする」という命題を満たすように、オリジナル記念品や沿線の名産品、駅弁を購入できる他、景勝区間での徐行や歴史的建造物の駅舎を持つ駅での長期間停車、客室乗務員によるフォトサービスといった観光サービスを取り入れている。「いさぶろう・しんぺい」もまた同様の設計思想の元に改造されており、漆紅色に塗られた外装に、明治を思わせるレトロな内装、展望スペースを持っており、肥薩線のスイッチバックやループ線から見渡せる日本三大車窓の一つ「霧島連山の雄姿」を拝むことができる。この二つの列車は、のちにJR九州の各路線を走るようになる観光特急の方向性を決定つけたものであると同時に、のちに水戸岡鋭治が手がけることになる全国の観光列車のデザインのモデルケースとなったのである。

 2006年には、退役する「あそBOY」号の代替として、キハ2858を改造した「あそ1962」が登場。水戸岡氏は1962年に登場したこの急行型気動車を、「はやとの風」に似た漆黒色に塗装し、その国鉄的なレトロさを保存しつつ人気の観光地、阿蘇へ行く観光列車として用いるように工夫した。

 09年には、かつての客車列車の趣を残しつつ、和風な客席をこしらえた「SL人吉」や、太陽照りつく日南の山あり海ありの大地を堪能し尽くせるように白塗装をベースに内装・外装に地元名産の飫肥杉をふんだんに美しく用いた「海幸山幸」といった、2017年現在の水戸岡デザインに直接つながるような色合いの車両が多数登場し始めた。こうした観光特急の増加は、九州新幹線全線開業に伴う特急再編のための一種の布石であるとともに、九州島内の通勤・通学需要の縮小に伴う国内・国外からの観光需要を少しでも取り出そうとするJR九州の企業努力の現れであるといえよう。

 

 5. 特急再編・九州鉄道の未来へ

 2011312日、ついに九州新幹線が全線開業する。新大阪から鹿児島中央までを最速3時間41分で結び、九州島内だけでなく本州との紐帯も俄然強固なものとなった。交通導線が大きく変わり、九州島内では博多駅を中心とする在来線特急網が、特に鹿児島本線を走る特急つばめの新幹線への全面移管を通じて大きく変更された。まずは何と言っても新幹線の車両であろう。山陽新幹線との直通車両は、東海道・山陽新幹線でもおなじみのN700系だが、東海道新幹線用の実用一点張りの設計とは異なり、水戸岡氏による「凛」を基調とした、観光路線にふさわしい日本的美しさ、力強さ、凛々しさを土台としたもてなしや心地よさを提供したデザインメイキングを行なった。外部塗装は、九州の焼き物文化を反映するかのような青磁をイメージした淡い青白色を採用、ロゴも古くからつながりの深い九州と西日本が手を取り合うような形を表したものとなっており、歴史と未来を両方示すようにした。内装も日本的居住空間をイメージした、電球色を使った穏やかな橙の空間に、木材の使用や木目調の室内やデッキ、グリーン車の照明には和紙柄のグローブを用いるなど、派手すぎずきめ細やかでその上美しい車内空間を作り出すことに成功している。新規開業に即して増備された新800系では更に突き詰めた意欲的なデザインとなっている。外装は若干の変更が加えられただけではあるが、内装は非常に凝ったつくりとなっている。各号車ごとに唐松模様の西陣織やワインレッドの革張りといった座席に使う織物を変えてみたり、デッキと車内を区切る妻壁の素材がクスノキだったり金箔だったりと、ミトーカイズムをこれでもかと打ち出したデザインやカラーリングとなっている。こうした和風仕様は九州新幹線が観光需要の比重が非常に大きいことを反映しており、車内アナウンスも他の新幹線ではない中国語・韓国語まで採用しており、九州と大陸のつながりまで伺えると同時にJR九州の積極的な観光客誘致姿勢を表している。

  観光列車の新規開発にも注力している。指宿枕崎線において、薩摩半島に伝わる竜宮伝説をテーマに、和を凝らした内装に黒と白で半分ずつ車両を塗装するユニークな外装で有名な「指宿のたまて箱」や、かつてのオランダ村特急用の車両を改造し、カラフルな座席の車両や逆に白一色のみの座席だけの車両を擁し、専用のキャラクターをあちこちに取り入れた、ファミリー向けの新たな阿蘇観光特急「あそぼーい!」、天草の南蛮文化をモチーフとした、木材とステンドガラスを使い、和洋折衷をドラマティックに体現した気品溢れる美しい大人の旅を演出してくれる「A列車で行こう」といった観光列車を次々と打ち出し、その集大成として打ち出したのが超豪華・高級クルーズトレインである「ななつ星 in 九州」である。水戸岡氏の観光特急デザインの究極形とも言えるこの列車は、重厚感・高級感あふれる紫がかった黒色に塗られた車両の中に、5つ星ホテルもかくやと言わんばかりの和洋折衷的な極上のリゾート空間が用意されており、「ななつ星」の愛称やその客車の車両等級である「イ(=一等車。戦後に廃止されてから50年ぶりの復活)」に恥じない最高級列車となっている。「列車自体が観光の目玉」というJR九州の観光列車の基本テーゼはそのままに、地元自治体や住民との連携による様々に工夫を拵えた観光プランは乗客たちを絶えず魅了し、その高値にもかかわらずこの列車の切符はプラチナチケットとなっている超人気列車である。

 他にも、明治時代の幻の豪華列車をモチーフとした、金色に彩られた外装に、木やガラスを贅沢に用いた非常に豪華絢爛でクラシカル、「ROYAL」な車内空間と九州の地場食材を活かした高級料理やスイーツを提供する第二のクルーズトレイン「或る列車」や、人吉の山々や球磨川の清流、そしてその上を舞うカワセミやヤマセミをイメージした肥薩線の観光特急「かわせみ・やませみ」といった車両を続々と世に送り出している。JR九州はその鉄道路線にできるだけ多くの付加価値を与えることで、全国的・国際的な集客を図り鉄道利用を喚起するとともに、過疎ローカル線の保全・振興にも役立てようとしているのである。

 通勤・近郊型列車にも変化が見られるようになった。水戸岡氏の「CT」コンセプトに基づく817系のロングシート車や筑肥線用305系の導入により、よりモダンで快適な通勤空間を福岡都市圏で提供できるようになり、ICカード「SUGOCA」の普及や新駅の絶え間ない設置を含め観光以外の通勤・通学需要にも果敢に応えていく積極姿勢を固辞している。

 JR九州は特急列車と切っても切れない関係にある。ハイパーサルーン導入や特急「つばめ」の就役がこの方針の決定打となったのはもちろんのこと、魅力ある車両を次々と打ち出してJR九州の特急ブランドを確立した水戸岡氏の貢献は計り知れない。彼のデザインが奇抜なのはその手を凝らした設計もさることながら、独特の色使いがその中にあることは言うまでもないだろう。813系や883系に見られる鮮烈な原色や銀色を用いた派手で洒落たデザインや、逆にCTシリーズや787系、885系に見られるように落ち着いた色合いでモダンかつ上品な印象を与える色彩指定は、視覚に与える直接的影響に大きく響くことだろう。後期のミトーカデザインに特徴的な木目調の多用や贅沢に彩られた金色や赤漆色もまた、派手だが成金趣味の低俗さに堕することのなく、寧ろ気品漂う格調高さを印象付けるようである。鉄道事業に単なるローカル輸送や都市内・都市間輸送としての側面だけでなく、「列車に乗ること自体が目当て」「その路線に乗りたい」という観光産業としての付加価値を付与することを可能にしたこと、また鉄道事業の本来の趣旨である大漁人員輸送においてもまた単なる移動にちょっとした喜びや癒しを与えられるようになったことは、JR九州の経営の多角化や鉄道事業の収支改善に大きく寄与していることは言うまでもないことだろう。

 JR九州は、かつて完全民営化は不可能であるとされた「三島会社」の一つであったが、こうして見事東証一部上場・完全民営化を達成した。四国・北海道のJRの経営危機や少子高齢化に伴う本州3社、特に西日本旅客鉄道の将来の低迷予想を鑑みると、これは大変大きなことである。これからもJR九州には躍進して貰いたい。また、他のJRや私鉄・三セク各線も、JR九州から学べることは非常に多くあることだろう。鉄道復権の鍵は、今九州の島の中に眠っている。

 

1.   参考文献

『鉄道ジャーナル198912月号』(鉄道ジャーナル社)

『鉄道ジャーナル別冊 日本の鉄道 全路線7 JR九州』(鉄道ジャーナル社)

『近畿車輛技報 vol.16 KS World 2009 西日本旅客鉄道(株)殿 N700系7000番台新幹線電車』(近畿車輛株式会社)

    http://www.kinkisharyo.co.jp/pdf/gihou/KSW16/KSW16_p44-48.pdf

    (2017101日閲覧)

JR九州年譜」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/company/info/history/history01.html

    (2017年10月1日閲覧)

JR九州の列車たち」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/trains/2017101日閲覧)

「特急 ゆふいんの森」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/trains/yufuinnomori/20171015日閲覧)

「特急 A列車で行こう」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/trains/atrain/20171015日閲覧)

「特急 かわせみ・やませみ」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/trains/kawasemiyamasemi/

    (20171015日閲覧)

「特急 あそぼーい!」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/trains/asoboy/20171015日閲覧)

「特急 いさぶろう・しんぺい」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/trains/isaburou_shinpei/

    (20171015日閲覧)

「特急 はやとの風」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/trains/hayatonokaze/20171015日閲覧)

「特急 指宿のたまて箱」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/trains/ibusukinotamatebako/

    (20171015日閲覧)

「特急 海幸山幸」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/trains/umisachiyamasachi/

    (20171015日閲覧)

800系 新幹線」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu.co.jp/trains/800/20171015日閲覧)

「クルーズトレイン ななつ星 in 九州」(九州旅客鉄道株式会社)

    https://www.cruisetrain-sevenstars.jp/about.html2017101日閲覧)

JR九州スイーツトレイン 或る列車」(九州旅客鉄道株式会社)

    http://www.jrkyushu-aruressha.jp/2017101日閲覧)


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