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相鉄車両色の変遷

平成29年度入学 海ツキ

 

1. はじめに

 相模鉄道(以下「相鉄」と記す)とは、横浜−海老名間24.6kmの本線と、二俣川−湘南台間11.3kmのいずみ野線の2路線からなる大手私鉄である。

 さて、相鉄では長年にわたって独自の車両を運用してきた。その独自性は車両技術ももちろんであるが、車両色についても現れていると言えるだろう。特にここ数年、JR・東急との相互乗り入れを控え、新たなプロジェクトを展開し、これまでとは全く異なる車両カラーリングを導入している。

 本記事では、相鉄の自社製作車両である5000系以降の車両色の変化を大まかに分類しながら、今後の相鉄のブランドイメージの向上に向けた、“色”に関する企業戦略も含めてまとめたいと思う。

 

2. かつての車両

 本章では、かつて相鉄において運用されていた車両のカラーリングについてまとめる。ただし、ここでは相鉄独自のカラーリングについて考察するため、それ以前のJR・東急などからの譲渡車両の改造車も多くを占める2000系・3000系については、ここでは軽く触れる程度にしたい。また、旧来の車両を改造し、床下機器を取り替えた新形式などは、カラーリングについて大きな変更がない限りは省略する。

 さて、戦後復興期に投入された2000系・3000系であるが、当初はチョコレートブラウンの一色で全塗装がなされていたが、ブルーグリーンとライトグレイのツートーンを経て引退時にはイエローオレンジの1色塗りになっている。

 

(1)旧5000

 旧5000形とは、1955年に登場した、日立製作所製のアルミ合金製車両である。ここでは、1988年に登場した5000系と区別するために、敢えて「旧」とつける。

 5000形は、相鉄では初めての自社制作車両であり、床下機器まで外装がすっぽりと覆うフルマウントボディなど、車両設備などについても特徴的な車両である。また、工業デザイナーによって車体のカラーリングもデザインされている。ダークブルーグリーンとライトグレイを主体に、レッドの帯とホワイトの細線でアクセントとなった多色塗が施されている。6000系も初期はこのカラーリングであった。

 

(2)6000

 6000系とは、1961年に輸送力増強のために導入された20m・4ドア編成の車両である。当初は旧5000系と同様のカラーリングであったものの、1973年の相鉄ジョイナスの開業に伴い、メロングリーンのような淡い緑色を地の色とし、屋根の部分を濃い緑色で塗装し、また車体の裾にオレンジ色のラインが入ったカラーリングとなっている。19641966年にかけて投入された、3000系車両を種車として6000系と同じ車体を搭載した3010形も同様のカラーリングをしている。

 

3. 現在使用されている車両

 現在相鉄で運用されている車両のカラーリングは、大きく2つに分類される。

 

(1)7000

 7000系は、1975年に登場した、現在使用されている車両の中では最も古い車両である。アルミ合金製車体であり、正面は中央の貫通扉が、側面は幕板部と裾部が赤で塗装されている。このようなカラーリングは現在運用されている車両の中では7000系のみとなっているが、以前は8000系・9000系もこのカラーリングであった。また、現在は使用されていない車両では、2000系の台車に新造の車体を取り付けた2100系、旧5000形の台車に新造の車体を取り付けた5100形、新5000系もこのカラーリングであった。

1. 相鉄7000系(相鉄本線上星川駅 2014.04.08.)近本紘太郎撮影

 

(2)新7000系・8000系・9000系・10000系・11000

 車両上部の幕板の部分に青、裾部にオレンジの塗装が施されている。現在最も多いカラーリングであるが、実はこれらの車両は初めから同じ塗装がされていたわけではない。8000系・9000系は先述の通り現在の7000系と同様に赤のラインが入っており、また10000系の導入当初のカラーリングは、青は現在よりもやや緑がかっており、またオレンジもやや黄色がかった色で、6000系を彷彿とさせるような色合いだった。

 では、なぜカラーリングを統一することになったのか。それは、2006年7月コーポレート・アイデンティティ(CI)を制定し、グループカラーとして「SOTETSUブルー」「SOTETSUオレンジ」を導入したためである。それに伴い、順次車両の塗り替えを行なってきたのである。そして現在では7000系のみが色の塗り替えをされていないのは、現役車両のうちでは最も古い車両であるため、一番早く引退することがわかっていることから、コスト削減のため塗り替えられていないのである。

 さて、新7000系は19864月に、8000系は199012月に登場した日立製作所製・車両である一方、9000系は19931月に登場した、相鉄では初めて完全新造車両を東急車輛製造に依頼した車両である。

 

2. 相鉄8000系(相鉄本線鶴ヶ峰駅 2013.08.22.

 3. 相鉄9000系(相鉄本線上星川駅 2014.04.08.)いずれも近本紘太郎撮影

 10000系は20022月に登場し、JR東日本E231系車両を基本ベースにして作られた車両、11000系は20096月に登場し、JR東日本E233系車両をベースに製作した車両である。このように、作られたメーカーは多様であるものの、カラーリングがすべて同じであるということは、相鉄が車両の色を統一することで、はっきりしたイメージを打ち出そうとていることのあらわれであるとも言えよう。

 

4. 相鉄10000系(現在の塗装)(相鉄本線上星川駅 2013.08.22.)近本紘太郎撮影

 

(3)9000系リニューアル

 ブランドイメージアッププロジェクトの一環としてリニューアルされた車両である。

外装は横浜をイメージした独自の色「YOKOHAMA NAVYBLUE」という色による全塗装である。また車内については、ロングシートの座席モケットはグレー、ボックスシートにはスコットランド製の黒色の本革を導入し、車内全体落ち着いたグレートーンでまとめている。加えて、車内照明は、昼間は白、夜間は温かみのあるオレンジ色になる調光・調色機能付きの車内照明を採用するなど、乗客が車内で目にするものの色はかなり配慮されていると言えるだろう。

 ブランドイメージアッププロジェクトについては、次章にて詳述する。

 

4. デザインブランドアッププロジェクトとは

 201511月、相鉄は「デザインブランドアッププロジェクト」が始動したと発表した。このプロジェクトは、2019年度にJR線と、2022年度には東急線との相互直通運転を前に、駅舎や車両を始め、商業施設や制服などを統一されたデザインコンセプトに基づきリニューアルすることで、相鉄の知名度や好感度を上げようとするものである。そのため、相鉄ではデザインの総合監修をクリエイティブディレクターの水野学氏・空間プロデューサーの洪恒夫氏に依頼し、「Thinking of the next century. これまでの100年を礎に、これからの100年を創る。」をコンセプトとして様々な取り組みを行ってきた。

 そして、その一環として行われたのが、9000系のリニューアルである。9000系リニューアル車両は、車内をグレーをキーカラーとしてまとめており、車体はヨコハマネイビーブルーという独自の濃紺色を採用し、これまでの相鉄車両とも、また他者とも一線を画する斬新なデザインとなっている。

 さらに、201712月には、新型車両である20000系が導入される予定である。この20000系の導入により、唯一旧塗装のままだった7000系が置き換えられることによって、これまで完全に統一されることはなかった車両色の統一がようやく実現されるのである。

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5. 20000系イメージ図 (相模鉄道より引用)

 ヨコハマネイビーブルーの車両の導入の他に、駅舎の改装もこのプロジェクトの一環として行われている。キーカラーにグレーを採用し、レンガ、鉄、ガラスというキーマテリアルに沿うデザインを施し、組み合わせて落ち着いた雰囲気を演出している。また、9000系リニューアル車両と同様、昼夜で色が変化する調光、調色機能付きの照明を採用している。 2017年1月の平沼橋駅でから始まり、各駅で順次行われる予定である。

 また、201611月には制服もリニューアルされた。スタイリストである伊賀大介氏の監修のもと、電車・バスの運転士の制服だけでなく、技術系社員の制服も、マッドな水色から濃紺を基調としたものになった。

 

 このような色を重視したブランド戦略の背景には、「利用者の確保」という相鉄にとっての至上命題が深く関連している。都心へ直通しない相鉄の沿線では、他の大手私鉄に比べて沿線人口の減少が早くから始まっていた。そのため、沿線外から新たな利用客を呼び込むことは今後とも必要不可欠であり、知名度・好感度を上げ、ブランドイメージを向上させることで「選ばれる路線」となることは至上命題なのである。

 しかし、相鉄は沿線にこれといった観光地もなく、花形的な特急車両というものもない。そこで、乗り入れ車両の色に独自性を出すことにしたのだろう。さらに、そこに高級感を演出していくということは、例えば阪急電車のように、マルーンと呼ばれるシックな車両色と「高級」というイメージが一体となって鉄道会社自体のブランドイメージを向上させるという効果を狙っていると考えられる。

 加えて、現在、車両色に路線色をそのまま当てはめ、また車両色によって路線を識別するということは広く行われていることである。そのため、ネイビーブルー以外車両も制定されたコーポレートカラーに合わせたものとなっていると考えられる。

 ブランドイメージアッププロジェクトの効果や影響はどれほどのものかは今はわからないが、ともかく、相鉄乗り入れの際は、ヨコハマネイビーブルーの車両は相鉄を知らない人々のを驚かせることは間違いないだろう。今後、相鉄がその車両の色や駅舎のデザインによって注目されるようになることに期待したい。

 

5. 参考文献

 サトウマコト『相鉄線物語』(230クラブ新聞社・1997年)

 広岡友紀『日本の私鉄 相模鉄道』(毎日新聞社・2010年)

 広岡友紀『相模鉄道』(JTBパブリッシング・2014年)

 「相模鉄道ホームページ」

   http://www.sotetsu.co.jp/index.html201710月1日閲覧)

 「相鉄100周年記念ホームページ」

   http://sotetsu100.jp201710月1日閲覧)


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