コンテンツ

ホームに戻る

簡易線web公開トップに戻る

平成30年五祭号目次に戻る

中央本線の振り子特急

平成29年度入学 長ナノ

 

1.   はじめに

東京と名古屋、2つの大都市を結ぶ中央本線は、同じく東京と名古屋を結ぶ東海道本線に比べて線形が良くないことから、高速走行が難しいとされてきた。それを克服すべく、日本国有鉄道が1973年から381系を中央西線(塩尻〜名古屋間)に投入して以来、その後継となった383系、さらに中央東線区間向けのE351系など、多くの振り子式特急が投入された線区といえる。本稿では、本年度のテーマ「鉄道と傾き」を踏まえ、車体を傾斜させて走行する振り子特急電車の投入を通して続けられてきた中央本線高速化の取り組みを、車両の投入という観点を中心に検証する。

2.   中央本線の特徴

中央本線は、大きく都市部を走る東京―高尾間と中津川―名古屋間、そしてそれ以外の区間とに分けられる。前者は比較的本数が多く、特に東京―高尾間では多くの中央線快速電車のダイヤの間を縫って走行するため、制限速度も95kmに抑えられるなどあまり特急高速化に重点が置かれていない。一方、後者は本数が少なく、停車駅相互間の距離も長くなることから、その区間を走行する特急列車の高速化が求められてきた。

中央東線については、1966年に電車特急「あずさ」が誕生し、181系電車を充当して運行され、のちに183系・189系も投入された(1)。[1]しかしながら、中央本線は都市部を除いて山中を走ることから線形があまり良くないという特徴があるが、1980年代終わりになり中央高速バスが新宿―松本便を運行開始したことを受け、特急「あずさ」はさらなるスピードアップによる差別化が求められていた。

1. 189系特急型電車(2018.03.10に新宿駅にて)

一方中央西線では急勾配に対応できる高出力気動車であるキハ181系が投入されていたが。1973年に完成する名古屋―塩尻間の電化に合わせて高速走行可能な特急電車の導入が求められていた。

 

3.   振り子つき車両の投入

前章のような経緯を受けて、スピードアップのボトルネックとなっていた曲線区間の通過速度を上げるべくそれぞれの区間に振り子式特急電車が投入された。

最初に投入されたのは、中央西線の381系電車である。これは591系試験車の成果を受けて製作された初の営業運転用振り子式電車であったが、重力のみによって車体傾斜を行う自然振り子式だったため、傾斜装置の摩擦によって曲線に入ってから傾斜するまでに時間差が生じ、乗り物酔いの原因になるとの指摘がなされている。

これを克服すべく登場したのが、制御付き自然振り子である。これは、前述の自然振り子式に空気ばねなどによる能動的な制御を追加したもので、カーブに入ったことを検知して自動で車体を傾斜させるものである。この方式により、いわゆる「振り遅れ」や「揺り戻し」による乗り心地の悪化は抑制された。

現在中央本線に投入されている振り子式車両は、すべてこの制御付き振り子を採用している。

 

(1) E351

前述の通り、中央西線にはすでに381系電車が投入されていたものの、中央東線には183/189系電車のみであり、中央自動車道の開通と相まって高速バスとの競争が激化していた。そこで、JR東日本は制御付き自然振り子を採用したE351系を新製投入した。(2)当初は振り子を作動させない状態で「あずさ」に投入された(1993)が、翌年に「スーパーあずさ」として投入され、最高速度が従来+10km/hとなる130km/hになったほか、曲線通過時に振り子機構を作動させることで本則+25kmの走行を可能にし、最速2時間半程度での運行を可能にした。

また、 主電動機も通常よりも高出力のMT69モーターを採用したり、傾斜を想定して裾部の絞り方が大きい独特の車体を取り入れるなど、初のEを冠する車両として数多くの新機軸が取り入れられた車両となっている。

大糸線への乗り入れ(2010年まで)を想定し、基本8両編成+付属4両編成に分割できる構造になっている。

運用としては、スーパーあずさ号を中心に、中央ライナー、東海道本線系統(2008年まで)のライナーに充当された実績がある。また、臨時列車としてムーンライト信州号の運用実績がある。

 

製造は全5編成、60両で打ち切られ、残りは振り子機構を搭載しないE257系が充てられたが、今年3月のダイヤ改正まで中央東線特急の顔であり続けた車両と言えよう。

2. 東京駅から回送されるE351系特急型電車(2018.03.15に東京駅にて)

 

(2) 383

中央東線でE351系が投入されたころ、中央西線の381系についても老朽化が進んでおり、後継車として383系が開発されることとなった。(3)

383系は従来の381系の採用した自然振り子の問題点を克服すべく、E351系と同様の制御付き自然振り子を採用した。その結果、曲線通過時の速度が381系では本則+25kmだったものが+35kmに引き上げられ、大幅な高速化が実現された。

また、ワイドビュー編成となり、381系からのパノラマグリーン車も付属しているほか、自己操舵機構の採用による乗り心地改善などの新機軸が採用された電車である。

なお、383系についてはE351系とは異なり幅広く運用についた実績があり、(ワイドビュー)しなの号をはじめ、セントラルライナーやJR東海管内での臨時特急などで多く運用された実績がある。

製造は6両編成が954両、4両編成が312両、2両編成が510両の計76両となっている。

3. 中央西線を走行する383系特急型電車(2015.10.17, 撮影地不明)

 

 

4.   振り子つき車両投入による変化

中央東線・中央西線のいずれも、中央自動車道の開通により、高速バスとの競争が激しくなっていたが、振り子式車両の投入は所要時間の短縮につながり、鉄道輸送に優位性をもたらした。その一方で、一部の区間では所要時間に大きな差が生じなかったことから、高速バスの低価格に対抗すべくお得なキップを設定する動きも多く見られた。(現に中央線の回数券は割引率が高く設定されている)

また、制御付き自然振り子式車両が導入されたとはいえ、傾斜角は5度程度と乗り心地の面でマイナスになる面が大きく、振り子による線路への負荷を考慮したメンテナンスの費用も高くつく、などの問題点が浮き彫りになった。

そこで、鉄道各社では振り子式に代わる空気ばね方式を採用する動きが進んでいる。詳しくは後述する。

 

5.   車両更新の動き

20183月ダイヤ改正は、中央本線特急にとって大きな変動の年だったといえよう。

前述のE351系がスーパーあずさ号を含むすべての運用から撤退するとともに、豊田車両センターに所属していた波動輸送用の189系が引退となり、原則として中央線特急はE353系とE257系のみとなった。(長野総合車両センター所属の189系は波動運用につく予定)

E351系の後継となるE353(4)は、従来の制御付き振り子方式ではなく「空気ばね式車体傾斜方式」を採用し、傾斜時に空気ばねへ圧縮空気を給排気し、車体を内側に傾けることで振り子式と同様の効果を得る方式である。

これによって乗り心地を改善することで、中央高速バスなどの競合に対抗していく方針である。

4. E353系特急型電車(2018.03.19に新宿駅にて)


 

6.   中央本線の今後

中央本線の曲線区間での高速化は狭隘なトンネルも相まってすでに限界となっており、現在の高速化のネックは中央線快速電車が走行する東京―高尾間の過密ダイヤとなっている。

この区間では特急電車も最高速度が95km/hになっており、本来立川まで複々線化される予定だったものも三鷹までしか完成していないため、朝ラッシュ時などは遅延が常態化している。

中央西線については単線区間が数多く、大幅な遅延が生じやすい線区となっている。また、豪雨などで不通になる場合も多く、これ以上の高速化は困難と考えられる。

これに加えて、今後は中央新幹線や高速バスの増便などで競争環境がさらに激化すると考えられており、将来の需要動向は見通せない部分も多いといえよう。



[1] 鉄道ダイヤ情報2018年3月号 p.23

inserted by FC2 system