戦後における旧型客車の等級帯、車体色の変遷

29 高ヨコ

 

1.   はじめに

本稿では客車の等級帯、および車体色の変遷について記述する。２章では等級帯の制定から第二次大戦期までの概略を述べ、３章以降では終戦期から等級帯の廃止までを述べる。

 

2.   等級帯の制定から第二次大戦期

　客車の等級帯のルーツは明治29年の関西鉄道に遡る。これは誤乗防止策であり、翌年には官営鉄道もこれを導入している。1等車を白帯、2等車を青帯、3等車を赤帯とするものであった。明治43年９月30日に定められた規定では150ミリ幅となった。この幅は一部例外を除いて等級帯の廃止まで受け継がれることとなる。当時の客車の車体色は黒とされている。この状態は長く続いたが昭和4年3月11日の規定改正では車体を黒から深褐色（昭和31年にぶどう色１号と命名、以下本稿では昭和31年以前であっても便宜上、同色をぶどう色1号と表記する）と定め、郵便車の帯は廃止された。昭和15年2月11日の規定改正では三等車の赤帯が廃止されることとなった。

 

3. 昭和20年代における変遷

3.1連合国軍用客車

　連合国軍の接収車は連合国軍側の指令により、昭和21年10月24日付けで一等車に準ずる白帯を巻くこととなった。この白帯の幅は152ミリで従来のものよりもわずかに太くなっている。白帯が選ばれた理由として、当時鉄道省の渉外部にあって連合軍側との交渉を担当した星晃氏は最優等の一等車の白帯を日本人から取り上げたという優越感があったとの見解を示してる。その後、昭和2２年１月５日付けで連合国軍用車のマルーン色への変更が命じられた。このマルーン色はのちに登場するぶどう色２号よりも明るいミルクチョコレート色で、ペンシルバニア鉄道の塗色と言われている。

 

3.2新たな一等帯の誕生

　昭和23年には当初連合国軍用一等車として製造されていたマイネ40が急遽鉄道省用となり、連合国軍用車と区別するために新たな一等帯の制定が必要になった。昭和23年6月26日の規定改正で一等車の帯色はクリーム色と定められた。

 

3.3 ２等帯の変化

　昭和24年（正確な月日は不明）には二等車の等級帯が青（のちの青4号に近い色）から水色に近い青（昭和31年に青１号と命名）に変わった。

 

3.4 連合軍接収客車の一般塗色化

　サンフランシスコ講和条約の発効に伴い、連合軍が接収していた客車はぶどう色１号へと戻された。荷物車の一部など引き続き米軍が所有する車両に関しても塗色はぶどう色１号となった。

 

4.昭和30年代における変遷

　4.1 一等車寝台車の格下げ

　昭和30年7月１日付けでマイネ29、マイネ38、マイネ40といった一等寝台車の全てが二等寝台車へと格下げされ、それぞれマロネ48、マロネ49、マロネ40に形式変更された。これに伴い帯色も変更されたが、一斉に更新することは困難であったため１等帯のまま二等車として運用されるケースもあったが、それらの車両も早急に更新された。当初は格下げの対象となっていた展望車を含む一等座席車の多くは格下げを免れ、一等帯のままであった。

 

 4.2 青大将塗色の登場

　昭和31年11月19日に東海道本線の全線電化が成り、それに合わせて特急「つばめ」の客車の車体色が淡緑５号、屋根色が銀色に変更されいわゆる青大将塗色となった。この列車には一等車、二等車が連結されていたが、それらの車両には等級帯は施されなかった。また、この青大将塗色の客車は順次特急「はと」にも投入された。

 

4.3 「はつかり」塗色の登場

　昭和33年10月10日に新設された上野と青森を結ぶ特急「はつかり」にも新塗色が施され、車体色は青15号にクリーム１号の飾り帯を巻き、屋根は銀色となった。これは同年に登場した20系寝台客車を意識したものである。この「はつかり」にも二等車が連結されたが、青大将塗色と同様に等級帯が撒かれることはなかった。

 

4.4 ぶどう色２号の客車への導入

　昭和34年7月１日に一般客車の色は戦前から長らく使われていたぶどう色１号からより明るいぶどう色２号に変更された。この塗り替えは工場入場の際に施工されたため、検査周期を考慮すると昭和36年頃までぶどう色１号の客車は残っていたと考えられる。ぶどう色２号への塗色変更と同時に窓下の等級表記、車掌表記の廃止、所属表記が形式表記の上から出入り口近くに移設されているが、昭和35年に撮影された車両には窓下の三等表記が残っていることを考慮すると、この表記変更に関しても一斉に行われたわけではなく、工場入場時に順次施工されたと考えられる。

 

4.5 一等帯の廃止

 昭和35年7月１日に２等級制が施行され、旧一等車は廃止されて旧二等車と同格の扱い隣、旧二等車は一等車、旧三等車は二等車とされた。これに伴い一等のクリーム帯は廃止された。

 

4.6 青大将塗色、「はつかり」塗色の終焉

　昭和35年は特別塗色が施された客車が充当された「つばめ」、「はと」、「はつかり」が電車化、気動車化する。昭和35年６月１日には「つばめ」、「はと」が151系電車に置き換えられた。昭和35年12月10日には「はつかり」が81系気動車に置き換えられた。これによって用途を失った客車のうち、座席車のスハ44系の一部は準急「いこい」に転用されることとなり、青15号に車体裾クリーム帯を巻いた塗色に変更された。「いこい」用に塗色変更されたもの以外に関しては検査による工場入場までは特別塗色のまま一般客車と混用され、入場する時に順次塗色変更された。なお、「はつかり」塗色は昭和36年12月から登場した観光団体専用列車のオハネ１７、ナハネフ１１の600番台に施され、昭和37年９月26日には正式に観光団体専用客車の塗装となった。

 

4.7　一等帯の変更

　昭和36年7月29日に一等帯は旧二等車時代から使っていた青１号から泡緑６号に変更された。この変更は工場入場時に順次施工されたため、昭和38年頃までは新旧塗色が並存していたものと考えられる。

 

4.8 車体色の青15号化

　昭和39年９月26日には一部の塗色が青15号に変更されることとなった。この対象となった大まかに言うと戦後製の特急、急行用客車および戦前製客車を含む近代化改造施工者車であり、工場入場時に順次塗色へ変更されることとなった。なお、これらの対象となるはずの車両でもぶどう色２号のままであった車両もあれば、急行「玄海」に充当されたマシ29など近代化改装が施されなかった戦前製の車両にも見栄えの観点から塗色変更を施した例もある。また、観光団体専用客車の車体色も青１５号に変更となり、工場入場時に順次クリーム帯が消された。

 

５. 昭和40年代以降の変遷

　1.  A寝台車の帯の等級帯廃止

　昭和44年5月10日に等級制に変わってモノクラス制が導入された。これに伴い旧一等座席車はグリーン車、旧二頭座席車は普通車、旧一等寝台車はA寝台車、旧二等寝台車はB寝台車にそれぞれ変更となった。なおグリーン車とア寝台車の等級帯には二等級制の物が引き続き使われた。同年9月20日にはA寝台車の等級帯が廃止となった。これにより等級帯が撒かれるのはグリーン車だけとなった。

 

2. グリーン車の等級帯の廃止

　最後の等級帯として残ったグリーン車の等級帯も労力削減のため昭和53年10月1日に廃止、グリーン車は検査入場時に等級帯を抹消された。これにより等級帯は終焉を迎えた。

 

6. 参考文献

往年の客車列車編成表（アルモデル）

RM Models　66,67号 (ネコ・パブリッシング)

鉄道ピクトリアルアーカイブセレクション　10号（電気車研究会）

知られざる連合軍専用客車の全貌（中村光司）