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「新幹線の未来を展望する」

令和3年度入学 仙アテ

 

1. はじめに

 鉄道開業150周年を迎える2022年は、記念すべき「新幹線YEAR」でもある。東北/上越新幹線40周年・山形新幹線30周年・秋田/北陸新幹線25周年…等々、JR東日本の数々の新幹線が、アニバーサリーイヤーを迎えているのである。加えて、去る923日に西九州新幹線が新規開業し、「かもめ」が気持ち新たに走り始めたことは、まだ記憶にも新しい記念すべき出来事だ。そんな新幹線は、今後どのような進化を遂げ、どのように成長していくのであろうか。この記事では、新幹線の未来を展望してみたいと思う。

 

2. 新幹線の歴史(概略)

 折角新幹線の未来についてまとめてみるので、過去についても概観してみたいと思う。以下は新幹線の年表であるが、簡略なものになっていることをご理解いただきたい。

l  1940年頃:物資を運ぶ「弾丸列車計画」が始動するも、戦況の悪化とともに凍結。

l  1964年:弾丸列車計画をもとにした東海道新幹線(東京―新大阪)が開業。

l  1972年:山陽新幹線(新大阪―岡山)開業。

l  1975年:山陽新幹線(岡山―博多)延伸。

l  1982年:東北新幹線(大宮―盛岡)、上越新幹線(大宮―新潟)開業。

l  1985年:東北・上越新幹線(上野―大宮)延伸。

l  1987年:工事が凍結されていた「成田新幹線」を正式に断念。幻の新幹線となる。

l  1991年:東北・上越新幹線(東京―上野)延伸」。

l  1992年:山形新幹線(福島―山形)開業。初のミニ新幹線となる。

l  1997年:秋田新幹線(盛岡―秋田)、北陸新幹線(高崎―長野)開業。

l  1999年:山形新幹線(山形―新庄)延伸。

l  2002年:東北新幹線(盛岡―八戸)延伸。

l  2004年:九州新幹線(新八代―鹿児島中央)開業。

l  2010年:東北新幹線(八戸―新青森)延伸。

l  2011年:九州新幹線(博多―新八代)延伸。

l  2015年:北陸新幹線(長野―金沢)延伸。

l  2016年:北海道新幹線(新青森―新函館北斗)開業。

l  2022年:西九州新幹線(武雄温泉―長崎)開業。

 

3. 今後の新路線開業

 今後、どのような新幹線路線が開業してゆくのだろうか。この項では、すでに工事が進んでいる3つの路線を、開業予定年度順に紹介する。なお、開業予定年度はあくまで公式発表による記事執筆時の「予定」であり、新型コロナウイルスの影響等によって、年単位で変わることもよくあるということをご理解いただきたい。

 

1) 北陸新幹線 (金沢―敦賀) 2023年度末予定

 現在金沢まで開業している北陸新幹線だが、これは完成された路線ではない。北陸新幹線計画の最終目標は、新大阪まで繋げることである。その一環として、金沢―敦賀の部分開業が、2024年春に予定されているのである。延伸線路長は125kmに及ぶ。

 現在大阪―金沢の輸送を担っているのは特急「サンダーバード」である。特急「雷鳥」の血を引くサンダーバードは、JR西日本屈指の利用者数を誇る特急であるが、経由する湖西線は強風の多い路線であり、運休率の高さにも悩まされている。従って、新幹線の開業によって、輸送力の強化と走行安定性の向上が期待されているのだ。ファンとしては特急「サンダーバード」が失われることは名残惜しくもあるが、今後大阪へと延伸する北陸新幹線を見守りたい思いである。

 

1. 北陸新幹線の延伸予定図(福井県のホームページより引用)

 

 なお、敦賀―大阪間は、ルートこそ決定されたものの、未だ着工には至っていない。開業予定は2046年となっている。ずいぶん先の話ではあるが、大阪まで延伸した暁には、大阪発着となる3つ目[1]の新幹線が誕生することとなる。これは1972年の山陽新幹線開業以来、実に70年ぶりのこととなるであろう。新幹線は東京を基準に路線が組まれることが多いが、北陸新幹線は東京と大阪の両方を基準に考えている、と言えそうだ。これは1つの注目点となるのでは、と筆者は感じている。

 

2) 中央新幹線 (東京―名古屋) 2027年度予定

 新たな時代の幕開けである。中央新幹線とはいわゆる「リニアモーターカー」のことで、近年は「リニア中央新幹線」と呼称されることが多い。大阪万博の頃から囁かれてきたリニアモーターカーが、ついに現実のものになろうとしている。

 中央新幹線は、従来の鉄道とは一線を画した方式で走行する。「鉄道」といえばレールの上を車輪で走行している姿が一般的に思い浮かぶが、中央新幹線はそうではないのだ。150 km/hまでは車輪で走行するものの、そこからは車輪を格納し、磁石と超電導技術の力を借りて「磁気浮上」を行う。そうして10 cmほど浮いた状態で走行するのである。営業最高速度は500 km/hにも達する。

 

2. 中央新幹線の完成予定図(神奈川県のホームページより引用)

 

 中央新幹線は東京―大阪間を結ぶ予定ではあるが、先ずは東京―名古屋間が先行開業される。既に東京―名古屋間は着工されており、2027年度開業に向けて着々と工事が進んではいるが、諸問題により開業の遅れが懸念されている。なお、名古屋―大阪間は京都を通らないルートが設定されており、開業は2037年度と予定されている。

 リニアモーターカーをいち早く体験してみたい人向け[2]には、試乗会が実施されている。山梨県在住の方には専用の枠が用意されているが、それ以外の方もJR東海のホームページから申し込めるので、全国の方にチャンスがある。実際にL0系(現在は改良型試験車)に乗って500 km/hの磁気浮上走行を体験できるだけあり、それなりに倍率の高い抽選となるが、筆者もついに先日当選した。皆様も応募されてみてはいかがだろうか。

3) 北海道新幹線 (新函館北斗―札幌) 2030年度予定

 北海道新幹線は、2016年に新青森―新函館北斗間が開業しており、東北新幹線と直通運転されている。現在は150 kmほどの路線長しかない北海道新幹線であるが、新函館北斗―札幌の約200 kmの区間の延伸開業が2030年度に予定されており、既に工事が始まっている。

 

3. 北海道新幹線の延伸予定図(JR北海道のホームページより引用)

 

 JR北海道はほぼ全ての路線が常に赤字であり、廃線や人口減少のスパイラルが懸念されている。そんな中、北海道の中心地・札幌へと延伸開業する北海道新幹線には、北海道全体の活性化といったことが強く期待されているように思う。例えば延伸ルート付近には、近頃突如湧いて出たことで有名になった、長万部の湧水などがある。この湧水自体にはさまざまな話が出ているとは聞くが、こういった新幹線の周辺地域も、観光客の増加に期待しているようである。北海道は非常に魅力的な地だと筆者は感じているので、新幹線が活性化の1つの理由となれば、鉄道ファンとしてとても喜ばしい。

 

4. 今後の新幹線車両

 新幹線といえば、新区間が開業することはもちろんのこと、新車両が登場することも大きく話題となる。最高速度の向上や乗り心地の改善、環境への配慮など、毎回さまざまな形で我々を驚かせてくれる新幹線の新型車両であるが、今後はどのような車両が登場する予定なのだろうか。この項では、公式発表されているものと開発段階であるものの2つをまとめてみる。

 

1E8系新幹線車両

 山形新幹線では、現在E31000番台とE32000番台が使用されている。これらは落成時期こそ様々であるものの、ベースは1997年にデビューしたE3系であり、それなりに性能として劣り始めていることは否めない。そして、東北・上越・北陸・秋田新幹線には、2010年以降に新規設計された車両が入っているのにもかかわらず、山形新幹線だけにはE3系の改良車が使い続けられていたことも事実である。

 

4. E8系のイメージ図(読売新聞オンラインより引用)

 

 そんな山形新幹線に、待望の新型車両が登場する。従来通りの命名法で名付けられた「E8系」は、現在の山形新幹線の7両編成体制及びカラーリングを踏襲しつつ、中身は大幅に進化している。まず、ついに300 km/h走行に対応することは非常に大きい点であろう。現在の最高速度から25 km/h引き上げられることになる。ミニ新幹線ゆえ、全区間で300 km/h走行できないのは残念な点ではあるが、ある程度の速達効果は期待できるはずだ。他にも、普通車全席へのコンセント設置や、荷物スペースの大型化、乗り心地を向上させる「フルアクティブサスペンション」の搭載に、更なるバリアフリー化など、様々な嬉しい進化が満載となっている。既に落成は始まっており、運行開始は2024年春となっている。

 山形新幹線ではこれに加えて、福島駅の改良工事が予定されている。山形新幹線の車両は、奥羽本線に乗り入れる都合上、上り・下りを問わず福島駅の14番線を使用する必要がある。すなわち、上りの新幹線も下り用のホームを使っているのが現状であり、これによって車両の平面交差も発生している。これがダイヤ作成上の大きなボトルネックとなっており、遅延発生時の遅れ回復も阻んでしまっているのである。現在、福島駅の11番線に山形新幹線がアクセスできるよう、アプローチ線を設ける工事を行なっている。完成すれば上りの新幹線は上り用ホームを使えるようになり、上下線の同時発着が可能になったり、平面交差を解消できるようになったりするのである。使用開始は2026年度末と予定されているが、山形新幹線のダイヤ改善に大きく貢献することとなるだろう。

 

2E956形式新幹線電車

 これは営業用車両ではないが、将来の車両につながるため紹介する。E956形試験車両は、次世代の新幹線を開発するための試験用車両で、「Advanced Labs for Frontline Activity in rail eXperimentation」を略して「ALFA-X」と呼ばれている。その主眼は東北新幹線の最高速度を360 km/hに引き上げることであり、主に仙台―新青森間で高速走行試験を行っているのである。

 

写真1. E956形(仙台駅 2022.09.21)筆者撮影

 

 実は360 km/h走行の構想自体はずいぶん前からあり、2005年にはE954/E955形試験車両、通称「FASTECH 360 S/Z」も360 km/h走行を夢見て試験を実施していた。最終的に398 km/hという最高速度を記録はしたものの、騒音の課題などは残ってしまい、360 km/hの導入は見送られてしまった。結果として、その後新造されたE5系の最高速度は320 km/hとなったのだ。

 そんな車両の後継機として登場したE956形ことALFA-Xは、360 km/hに1割余裕を持たせた400 km/hでの走行性能を誇るという。ただ、新幹線はただ高速度を出せれば良いというわけではなく、ブレーキ性能や環境、乗り心地、さらに騒音などにも配慮しなければならない。ALFA-Xは最新技術の力でこれらをカバーすることを目指し、15年以上続く夢を実現させようとしているのである。E9系あるいはE10系と名付けられるであろう新しい東北新幹線の車両は、360 km/hという超高速度での営業走行を可能にしているかもしれない。

 なお、ALFA-Xはそろそろ廃車されるという噂もあり、実物を見たい方は早めに行動した方が良いであろう。ダイヤは公式には発表されていないが、平日の午前8時・正午・午後4時頃に仙台駅に向かえば、遭遇できるかもしれないとのことだ。

 

 さて、この項では未来の車両を紹介したが、紹介した2つはどちらも東日本系統のものであり、東海道・山陽・九州新幹線の話題は一切出ていない。実際、東海道・山陽新幹線の新型車両の情報は、2020年にデビューした「N700S」以来出ていないのである。

 まだ登場から間もないから情報が出ていないだけかもしれないが、私の個人的な考えとしては、JR東海は新型車両の開発をしばらく終了し、中央新幹線の開発に全力を注ぎたいのではないかと思う。N700Sはしばらくの間活躍する性能を持っているはずだし、今から新型車両を開発しても、中央新幹線の開業と被ってしまうだろう。もちろん、東海道・山陽新幹線が廃止されるわけではないため、ゆくゆくは新型車両が登場するはずだが、しばらくは音沙汰なしとなるかもしれない。完全に個人的な妄想ではあるが、考えが正しいにせよ外れるにせよ、輝かしい未来が待っていることを期待している。

 

5. おわりに

 新幹線の節目の年とあって、現在出ている情報から新幹線の未来を俯瞰してみたが、技術革新に裏打ちされたワクワクする未来を予感することができた。現実問題としては、工事や開発には多くのお金や人手が必要となるため、揉め事が起こったり、予定が狂ったり、うまくいかなかったりすることは往々にしてある。採算が取れるのか、皆のメリットになるのか、思った通りに行くのか…などの懸念事項が、新幹線事業には特に多いのも事実で、行き詰まっている新幹線計画もいくつか存在する。一方で、新幹線技術に携わる者たちの「技術革新で世の中を良くしたい」という思いも、予定されている未来から感じられると思うのだ。論争や苦悩はたくさんあると思うが、これまでの日本とともに成長してきた新幹線には、今後も日本や世界とともに発展してくれるよう願っている。

 

 

 

6. 参考文献

全て2022102日に閲覧。

JR東日本 鉄道開業150周年スペシャルサイト」

https://www.jreast.co.jp/150th/

JR東日本 新幹線イヤー2022

https://www.jreast.co.jp/shinkansenyear2022/

nippon.com 新幹線の歴史」

https://www.nippon.com/ja/features/h00078/

「福井県 北陸新幹線 金沢・福井間、敦賀駅部が平成21年末までに認可へ(政府・与党合意)」

https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/shinkansen/minaoshi/201216-2.html

JR東海 リニア中央新幹線」

https://linear-chuo-shinkansen.jr-central.co.jp

「神奈川県 リニア中央新幹線の概要」

https://www.pref.kanagawa.jp/docs/gd6/cnt/f160210/p162029.html

「リニア中央新幹線早期全線開業実現協議会」

https://linear-osaka.jp

「東京新聞 リニア開業、2029年以降にずれこみへ 国の中間報告に静岡県は不満表明 水問題でJR東海との溝深く」

https://www.tokyo-np.co.jp/article/149986

JR北海道 北海道新幹線」

https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/shinkansen/index.html

「日本経済新聞 JR北海道が全21区間赤字 223月期は790億円」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFC030WA0T00C22A6000000/

JR東日本ニュース 山形新幹線をより便利に快適にします」

https://www.jreast.co.jp/press/2019/20200303_ho01.pdf

「読売新聞 山形新幹線で運行予定の新型車両、利用客の回復見込めず『車両減』」

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220607-OYT1T50109/

JR東日本ニュース 新幹線の試験車両 ALFA-X まもなくデビュー」

https://www.jreast.co.jp/press/2018/20190315.pdf

「朝日新聞デジタル 次世代新幹線試験車両 360キロ超 みちのく沿線駆ける」

https://www.asahi.com/articles/ASQ9J73BBQ7NUNHB011.html

「乗りものニュース 「FASTECH」の夢 引継ぎ走る「ALFA-X」 新幹線試験車 進化の歴史 半世紀で速度1.5倍」

https://trafficnews.jp/post/101373/2



[1] 中央新幹線は除いた。

[2] 愛知高速交通の「リニモ」も、磁気浮上式のリニアモーターカーであり、ここでも浮上走行は体験できる。また、例えば都営地下鉄大江戸線も、鉄輪式ではあるがリニアモーターカーである。


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