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「500系新幹線電車の30年間」

2020年度入学 農学部 千ツヌ

 

左から700系新幹線電車、500系新幹線電車 (新大阪 2011.08.15

0.はじめに:500系新幹線電車にとっての節目

今年2022年は500系新幹線電車の試作車両「WIN350」の登場から30年という節目の年であるとともに、量産車による営業運転開始から四半世紀の区切りでもあることから、記事の題材として選定した次第である。

以下では一部箇所を除き、「西日本旅客鉄道」に代わり「JR西日本」、「500系新幹線電車」に代わり「500系」の呼称をそれぞれ用いることとする。

 

1500系の概要

西日本旅客鉄道により開発され、同鉄道に在籍する新幹線電車である。試作車が6両×1編成、営業運転用の量産車が16両×9編成、製造された。試作車は1992年に完成し、旅客車両の開発に向けて試験走行を行った。この結果をもとに設計・製造された量産車は1996年に第一陣が完成し、1997322日に山陽新幹線で運行を開始した。その後、同年1129日のダイヤ改正では東海道新幹線への乗り入れを開始している。登場以降、東海道・山陽新幹線の最速達種別である「のぞみ」の運用を受け持っていたが、2007年より後継車となるN700系新幹線電車の登場に伴い、500系の「のぞみ」運用は順次置き換えられた。2010228日の「のぞみ29号」をもって「のぞみ」からは事実上引退し、同時に東海道新幹線から撤退している。これ以降、現在に至るまでは山陽新幹線にて各駅停車の「こだま」を中心に運行されている。

 

2500系の開発に至る背景

国鉄が分割・民営化された当時、山陽新幹線における最高時速は220kmが限界であり、1989年に100系「グランドひかり」が登場した際も時速230kmへの速度向上に留まっていた。山陽新幹線は、大都市中心部からのアクセスが容易な福岡空港や伊丹空港といった空港の存在により航空機との激しい競争下にあり、生き残るうえでは一層の速達化が必要であった。加えて、航空会社の事業範囲を定める産業保護制度としての45/47体制の撤廃、関西空港の開港といった将来的な競争の激化にも備える必要があった。このような背景から、既存車両の性能を大幅に上回る、最高時速350kmでの運転を念頭に置いた試作車として500900番台試験車が1992年に落成した。これは同時期に東海道新幹線で営業運転を開始した、東海旅客鉄道300系の最高時速270kmをも大幅に上回る高速性能である。この車両は6両編成を組んでおり、「WIN350」の愛称がついている。同車両による試験走行の結果、騒音や経済面での観点から最高時速350kmは現実的ではないと判断されたため、旅客車は最高時速300kmでの営業運転を行う方針となった。

 

3500系の技術

高速運転性能を最大限に追求して設計された500系では、後継車種へは引き継がれることのなかった部分や、後年改造により見納めとなったものも含めて数多くの新技術が採用されている。ここでは製造時点の量産車で用いられた技術について記述していく。

まず、500系のシンボルともいえるものが先頭形状である。高速運転を実現するために空力特性の向上やトンネル進入時の微気圧波抑制を狙った、長さ15mの曲線状となっている。これはドイツの工業デザイナー、アレクサンダー・ノイマイスター氏(N+Pインダストリアルデザイン社)による設計である。

車体全体の構造についても、様々な技術が用いられている。空気抵抗を極力抑えるために車体断面積を10.2㎡としており、フル規格の新幹線車両としては異例の小断面である。加えて、車体表面の凹凸・段差を極力減らすため、側引戸にプラグドアを採用し、窓ガラスを車体外板と面一に近づけるなどの工夫が施された。外装の平滑化は、高速走行時の騒音低減に役立っている。車体材料には、軽量建材などにも用いられるアルミハニカム材が用いられた。強度確保と軽量化を両立できる材料として優れている。

制御方式はVVVFインバータ制御方式である。スイッチング素子にGTOサイリスタを用いたVVVFインバータにより、主電動機(走行用のモーター)を制御する。主電動機は、第1編成では285kW、第29編成では275kWの定格出力を有する交流モーターであり、出力に余裕をもたせることで、高速連続運転時に過熱が起こらないよう配慮されている。

ブレーキについては、回生ブレーキを搭載している。最高速度の向上による制動距離延長を抑えるため、レールと車輪の間にセラミック粉を噴射して減速性能を向上させている。この役割を担う装置が増粘着剤噴射装置である。このような入念な設計により、時速300kmでの走行時においても時速270kmの走行と同等の制動距離で停止することができる。

集電装置も500系独特のものが採用された。低騒音化を図るため、フクロウの羽を参考にした細かな突起が集電装置のアームにつけられている。フクロウの羽は音が発生しにくい形状となっており、獲物に気付かれることなく狩りを行うことができる。

走行時の動揺を抑えることも新たな課題とされた。そのため、一部号車には左右方向の振動をダンパにより抑える、セミアクティブサスペンションと呼ばれる機能が搭載されている。搭載号車は、動揺が発生しやすい116号車(両先頭車)、集電装置が搭載される513号車、グリーン車の810号車となっている。

 

5.「のぞみ」時代の運用について

500系は9編成という小所帯に留まり、充当列車も決して多くはなかったが、最盛期には東京―博多を結ぶ「のぞみ」の7往復を担当した。運用について主な変遷を述べる。

 

19973月ダイヤ改正

のぞみ503500号(新大阪―博多間)に充当

 

199711月ダイヤ改正

東京~新大阪での運転を開始、東京―博多間「のぞみ」は3往復に充当

 

199810月ダイヤ改正

500系増備に伴い、東京―博多間「のぞみ」は7往復に充当。最速列車は東京―博多間を4時間49分で結んだが、後のダイヤ改正では停車駅増加に伴い所要時間が長くなっている。

 

200110月ダイヤ改正

500系「のぞみ」全列車が新神戸に停車し、乗車機会の増大が図られた。

 

200310月ダイヤ改正

品川駅が開業し、1本を除き500系「のぞみ」も停車。徳山・新山口に停車する列車も設定された。

20077月ダイヤ改正

後継車種であるN700系がデビュー。東京―博多「のぞみ」に優先的に充当

 

20083月ダイヤ改正

東京―博多の運用が「のぞみ」2往復に縮小

 

20083月ダイヤ改正

東京―博多の運用が「のぞみ」2往復に縮小

 

20103月ダイヤ改正

ダイヤ改正を控えた228日に500系「のぞみ」の最終運行が行われた

 

6.後年改造

1)「こだま」用8両編成への改造

のぞみ用16両編成「W編成」を、こだま用8両編成「V編成」に改造する工事である。

500系量産車はW1W9の総勢9編成が製造されていたが、W1を除くW2W9編成がV2V9編成に改造されている。数字部分は改造前のまま引き継いでいる。

主な改造項目を以下に述べる。

 

・中間車8両(旧59121415号車)を抜き取り、廃車とする

・新27号車に集電装置(原型とは異なるシングルアーム式の新品)を設置

・喫煙室の新設と、座席の全席禁煙化

・グリーン車であった旧10号車を普通車化し、新6号車とする

・新8号車の客席内に、お子様向け運転台を新設

 

2)制御機器の更新

製造時より、制御装置にはGTOサイリスタを用いたVVVFインバータ装置が用いられた。経年劣化により、IGBTを用いたVVVFインバータ装置への置き換えが一部のV編成を対象に行われた。工事を受けた車両が2016年頃より確認されている。

 

3)行先表示器の交換

車体側面には列車愛称と行先、停車駅を表示するLEDディスプレイ(行先表示器)が設置されている。登場時は3LED式のディスプレイが用いられていたが、2021年よりフルカラーLEDを用いた表示器への換装が行われた。

 

 

1.特別編成

V2編成の内外装を改造した特別編成が運行されてきたため、それらについて紹介する。いずれも、新大阪~博多間のこだま730741号のみの限定運用である。

 

1)プラレールカー

JR西日本・タカラトミー・パナソニックの3社の連携により、20147月より運行されている。鉄道玩具「プラレール」のジオラマが設置され、電源に乾電池「エボルタ」を使用したプラレール車両が走行するほか、記念撮影スポットやプレイゾーンなどが設けられ、家族で楽しめる車両として人気を博した。

2015830日まで運行されていたが、終了直前の同月13日には利用者3万人達成を記念するイベントが行われ、500系をモチーフとしたヒーロー「カンセンジャー」の登場や、利用者への記念切符配布などが行われている。

 

2500 TYPE EVA

2015年が山陽新幹線の全通40周年および新世紀エヴァンゲリオンの放送開始20周年の節目の年であったことを記念して、「500 TYPE EVA PROJECT」が開催された。エヴァンゲリオン初号機をモチーフとした塗装を車体に施し、2015117日から運行を開始した。

本来は2017年度末をもって運行終了が予定されていたが、好評のため1年あまり延長する形で2018513日まで営業運転を行った。また、運行終了前には京都鉄道博物館において特別展が開催されていた。

 

3)ハローキティ新幹線

「ハローキティ」とコラボレーションした新幹線である。ピンク色を基調とした内外装が特徴となっており、こちらは2018630日より運行を行っている。

1号車の内装は「HELLO! PLAZA」と呼ばれる、西日本の地域の展示スペースであり、期間ごとに各地域の魅力を紹介する展示が行われている。

2号車は「KAWAII! ROOM」とされており、ハローキティを随所に散りばめたデザインとなっている。車内には記念撮影が可能なフォトスポットが設けられている。

 

8.今後について

500系は新幹線電車としては例外的に活躍期間が長い車両であり、特にV2編成の8両は現在日本で活躍する新幹線車両の中でも最古である。そのため、今後の去就が注目される車両である。明確な置き換え計画の発表は確認できず、制御機器や行先表示器など一部電装品の交換が行われているなどの動きから今後も引き続き活躍するとも捉えられる。しかし、制御機器と表示器の交換対象外であったV5V6編成が廃車となり、先頭車が解体されるといった形で、一部車両は役目を終えている。引き続き活躍が続く車両についても、早めに記録をするに越したことはないであろう。

 

 

参考文献

『鉄道テーマ検定公式ガイドブック1 新幹線』(ネコ・パフリッシング、2012年)

 

「ハローキティ新幹線 HelloKitty Shinkansen | JR西日本 (jr-hellokittyshinkansen.jp)

https://www.jr-hellokittyshinkansen.jp/

 

JR西日本のエヴァ新幹線「500 TYPE EVA」、513日運行終了。京都鉄道博物館で特別展開催 1号車のエヴァンゲリオン初号機・コクピット体験確約付きツアーも」 - トラベル Watch (impress.co.jp)

https://travel.watch.impress.co.jp/docs/news/1102169.html

 

500系プラレールカー終了へ - 利用者3万人! 記念イベントにカンセンジャー | マイナビニュース (mynavi.jp)  https://news.mynavi.jp/article/20150613-a209/

 

「もうひとつの500系新幹線『WIN350』 熾烈な飛行機との戦いに挑んだ高速試験電車」 | 乗りものニュース (trafficnews.jp) https://trafficnews.jp/post/92227


「車両用主電動機」:JR西日本 (westjr.co.jp)

 https://www.westjr.co.jp/company/business/material/vehicle/detail/15208.html

 

WDT9101 WDT9102 WDT9103 JR西日本500900番代“WIN350”」|台車近影|鉄道ホビダス (hobidas.com)

https://rail.hobidas.com/bogie/archives/2008/03/wdt9101wdt9102w.html

 

 


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