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「JRの新路線計画」

令和4年度入学 千アヤ

1. はじめに

鉄道にとって路線の開業というのは大きな節目の1つである。しかし残念ながら近年は新線開業よりも少子高齢化などによる利用客数減少に伴うローカル線の廃止のニュースをよく耳にするようになってしまった。だが、明るいニュースがないわけではない。つい最近も西九州新幹線が武雄温泉―長崎間で開業し、2024年春には北陸新幹線金沢―敦賀間の開業が予定されている。そこで今回はJR各社が今後開業を計画している新路線について紹介し、それらを通して鉄道の未来を考える上で重要なテーマについて考察したい。なお本稿では、すでに着工しているJRの路線を中心に扱う。

 

2. 羽田空港アクセス線

1)路線の概要

羽田空港アクセス線は東京都心と羽田空港の間を結ぶJR東日本の路線である。運行系統としては、大崎を経由して新宿・池袋方面へ向かう西山手ルート、東京を経由して宇都宮線・高崎線・常磐線方面へ向かう東山手ルート、新木場を経由して房総方面へ向かう臨海部ルートの計3ルートが予定されている。線路は田町駅付近から東京貨物ターミナルまでは既存の貨物線を改良し、東京貨物ターミナルと羽田空港の間は新規に建設される予定である。開業は2029年度を予定している。

 

2)東京モノレール・りんかい線について

ここでは羽田空港アクセス線の開業にあたり、想定される問題について考察してみたい。1つ目は東京モノレールの処遇である。東京モノレールは羽田空港アクセス線と同じく羽田空港へのアクセスを担う路線であるが、2002年にJR東日本の傘下に入っているため羽田空港アクセス線が開業すると、JR東日本はグループで羽田空港アクセス路線を2路線抱えることになる。しかも東山手ルートは東京モノレールと同区間を結ぶことになるため、両路線の競合が予想される。両者がどのように棲み分けを図るのか注目される。

2つ目はりんかい線の問題である。西山手ルートと臨海部ルートでは東京臨海高速鉄道りんかい線に乗り入れることが想定されるが、仮に同線経由で羽田空港―新宿間、あるいは羽田空港―舞浜間を利用する乗客がいた場合、乗車駅も降車駅もJ R東日本の駅であるため、現行のシステムでは、りんかい線の運賃は徴収出来ない。こうした問題を解決するためJR東日本がりんかい線を買収に乗り出すことも考えられ、りんかい線からは今後も目が離せない。

3. なにわ筋線

なにわ筋線は2023年春に大阪駅の一部として開業予定の北梅田()JR難波・新今宮間を結ぶ合計約7.2kmの路線である。途中駅として中之島()、西本町()、南海新難波()が設置される予定である。この路線の特徴として、JR西日本と南海の共同プロジェクトであることが挙げられる。正確に言えば、路線は第3セクターの関西高速鉄道が建設・保有し、北梅田()―西本町()間ではJR西日本と南海が共同で、西本町()JR難波間ではJR西日本が、西本町()―新今宮間では南海が運行を担当するという上下分離方式がとられている。

なにわ筋路線の建設意義としては新大阪や関西空港へのアクセスの向上や、大阪・梅田、中之島、難波、天王寺など、大阪の中心部を結ぶ新たな軸が形成されることなどが挙げられる。2021年に着工され、2031年春の開業が予定されている。JRが大都市の中心部を貫く路線を新たに開業させるのは久々のことであり、また南海と共同運営という点も注目される。

 

4. 北海道新幹線

1)路線の概要

モニター画面に映る文字

中程度の精度で自動的に生成された説図1. 北海道新幹線のE5系の行先
表示器(東京 2018.08.26)
北海道新幹線は新青森札幌間約361kmを結ぶ予定のJR北海道の新幹線である。このうち新青森―新函館北斗間は2016326日に開業済みで、残りの新函館北斗札幌間約212km2030年度末の開業を目指して工事が進められている。この区間は函館本線に沿ったルートとなっており、途中駅として新八雲()、長万部、倶知安、新小樽()の各駅の設置が予定されている。

北海道新幹線はいわゆる整備新幹線である。整備新幹線とは「全国新幹線鉄道整備法」に基づく「整備計画」に沿って整備が行われている新幹線のことを指す。整備新幹線の特徴として上下分離方式の採用が挙げられる。これは線路を鉄道・運輸機構[1]が線路を建設・保有し、JRは使用料を払って車両を運行するというものである。建設費はJRが新幹線開業によって見込まれる利益の上昇分のみを負担し、残りの費用の3分の2を国が、3分の1を地方自治体が負担する。そのため北海道新幹線では線路の建設・保有は鉄道・運輸機構が担い、車両の運行はJR北海道が担うことになっている。整備新幹線は通常最高時速260kmの規格で建設されるが、速達性向上のためにJR北海道の負担で最高時速320kmでの走行に必要な工事を追加で行うこととなった。

2)並行在来線問題

整備新幹線では通常、並行する在来線は新幹線の開業と同時に沿線自治体に経営移管されることになっている。北海道新幹線でも、開業後に函館本線の函館―小樽間がJRから経営分離されることになっている。通常であれば、こうした並行在来線は沿線自治体などが出資する第3セクターに経営が引き継がれる。しかし北海道新幹線では、この点において大きな問題が生じている。

まず函館本線のいわゆる山線と呼ばれる長万部―小樽間が新幹線開業後に廃止されることが20223月に早々と決定されてしまった。かつて山線は函館と札幌を結ぶメインルートであったが、特急列車などが勾配のきつい山線ではなく、平坦な室蘭本線・千歳線を経由するようになったため、現在では普通列車のみが走るローカル線となってしまった。そのため利用客も少なく、沿線自治体は第3セクターへと移管した場合、財政負担が大きくなるとして、鉄道を廃止してバスへ転換することを決定した。

しかし事態はそれだけに止まらなかった。残りの函館―長万部間についても沿線自治体から全線の鉄道維持に対する慎重論が上がったのだ。この区間は現在は函館―札幌間を結ぶ特急「北斗」や本州と北海道を結ぶ貨物列車が走る大動脈であるが、新幹線開業後は函館―札幌間の都市間輸送の役目を新幹線に譲ることになるため、旅客需要が大幅に落ち込むのは間違いない。そのため沿線自治体としては新幹線へのアクセスを担う函館―新函館北斗間以外は継承したくないと考えているのだろう。確かに沿線住民にとっては代行バスの運行があれば十分かもしれない。しかし、この区間が廃止されれば本州から北海道の大部分への直通運転が不可能になり、貨物の輸送効率が大幅に低下しかねない。また積み替えなどにより輸送コストが増加し、北海道産の農産物などが値上がりする可能性もある。これを受けて、政府も920日に北海道、JR貨物、JR北海道と同区間の維持に向けて協議を行う方針を明らかにした。貨物ルートの維持は沿線自治体だけでなく、日本全体に影響を与えうる問題であり、今後の協議がどのように進展するか注目される。

 

5. 北陸新幹線

1)路線の概要

北陸新幹線は東京と大阪を日本海側経由で結ぶ予定の新幹線である。正確には東京―大宮間は東北新幹線、大宮―高崎間は上越新幹線に乗り入れており、北陸新幹線と呼ばれるのは高崎から先の区間である。高崎―長野間は長野新幹線として1997101日に開業し、2015314日の長野―金沢間開業を期に北陸新幹線という名称が一般に使われるようになった。現在は金沢と福井県の敦賀の間の約125kmの建設工事が進められており、開業は2023年度末を予定している。途中駅として小松、加賀温泉、芦原温泉、福井、越前たけふが設置される予定である。当初は2023年春の開業が予定されていたが、加賀トンネルのひび割れ対策の影響で開業が1年遅れることが202011月に発表された。北陸新幹線の特徴として、全国で唯一JR2社にまたがっていることがある。高崎―上越妙高間はJR東日本が、上越妙高から西はJR西日本が管轄している。

 

2)大阪延伸について

図2. 北陸新幹線のW7系(右)
(東京 2019.02.02)
駅のホームに停まっている飛行機

自動的に生成された説明未着工の区間ではあるが、敦賀延伸に加えて大阪延伸についても触れたい。前述の通り北陸新幹線は最終的に新大阪まで延伸されることになっている。敦賀―新大阪間のルートは20173月に福井県小浜市から京都へ南下し、東海道新幹線よりも南側の京都府京田辺市を経由して新大阪に至るルートが採用された。しかし、このルートは大まかなものであり、詳細なルートや途中駅については調査を行った上で今後決定される。建設費は2兆円1千億円とされているが、北海道新幹線が開業する2030年度末まで予算が回ってこないため、着工は2031年、開業は2046年となることが予定されている。日本の新幹線網もかなり充実してきた中、実際に大阪延伸が事業化されるのかも含めて今後の進展が注目される。

 

6. 西九州新幹線

西九州新幹線は福岡と長崎を結ぶ予定のJR九州の新幹線で、今年923日に武雄温泉―長崎間約66kmが先行開業した。未完成の区間は着工に至っていないため、本来はこの記事の趣旨からずれるが、話題性を考慮して取り上げたい。

この西九州新幹線は、全国で唯一他の新幹線路線と全く接続していない路線である。当初はレールの幅が異なる新幹線と在来線を直通できるフリーゲージトレインを使用して、長崎―武雄温泉間はフル規格の新幹線を建設、武雄温泉―新鳥栖間は在来線、新鳥栖―博多間は開業済の九州新幹線に乗り入れる形での開業を目指していた。しかしフリーゲージトレインの開発が難航したため、この計画は見直されることになった。そこで国は20198月に長崎―新鳥栖間をフル規格の新幹線として建設する方針を示した。ところが佐賀県がこの案に対して難色を示したのだ。理由は佐賀―博多間の所要時間は在来線特急でも約40分であるため、新幹線開業による時間短縮効果が少なく、むしろ在来線特急が無くなることによるデメリットが予想されるにも関わらず、整備新幹線のスキームにより建設費の3分の1に当たる約660億円を負担しなければならないからだ。西九州新幹線の全線開通を目指すならば、佐賀県の同意は必須であるため、今後の国と佐賀県の協議の行方が注目される。

7. 中央新幹線

1)路線の概要

中央新幹線は東京と大阪を結ぶ予定のJR東海の路線である。このうち品川―名古屋間285.6km2027年の開業を目指して工事が進められている。同区間を結ぶ東海道新幹線と異なり、途中神奈川県、山梨県、静岡県、長野県、岐阜県を経由して内陸部を直線的に結ぶルートとなっている。途中駅は静岡県以外の各県に1駅ずつ設置される。車体をわずかに浮上させて走行する超電動リニアを採用して国内最速となる最高時速500kmで走行し、同区間を最速40分で結ぶ予定である。大阪へは早ければ2037年に延伸を予定している。中央新幹線の整備目的としては東京―大阪間の大動脈を二重系化することによる災害時等のリスク回避や時間短縮による航空機からの誘客、東海道新幹線を「こだま」主体のダイヤにすることによる「のぞみ」通過駅の利便性向上などが挙げられる。

 

2)大井川の水資源問題

中央新幹線の工事は開業に向けて着々と進められているが、工事が進んでいないのが大井川の水資源問題を抱える静岡県内の区間である。中央新幹線は南アルプストンネルの途中で大井川の直下をくぐるルートになっている。また、このトンネルの周辺には断層が存在し、水が浸透しやすくなっている可能性がある。このため大井川の水がトンネルに染み出してくる可能性があるのだ。問題は、このトンネル湧水が大井川に戻らず、他県に流れてしまう恐れがあるということだ。南アルプストンネルは山梨県と長野県に入口があり、間の静岡県内の区間に向かって標高が高くなっていく構造になっている。つまり静岡県内の大井川からトンネルに水が漏れると、より標高の低い山梨県や長野県の入口から流れ出てしまうと言うのだ。対策として完成時には大井川へ水を戻すトンネルがつくられる予定だが、少なくとも工事中は水の流出は避けられない。静岡県はこの点を懸念して中央新幹線の工事を認めておらず、着工の目処は立っていない。JR東海はポンプによる汲み上げやダムの取水量を減らすことによる流量の維持などの案を提示しているが、静岡県は工事を認めない姿勢を崩していない。建設費約7兆円に上る巨大プロジェクトであるだけに、今後静岡県が着工を認めるのかが注目される。

 

8. おわりに

ここまでJR各社の新路線計画を見てきたが、これらの事例は鉄道の未来を考える上で重要と思われるトピックをいくつか含んでいるように思う。1つ目は空港アクセスである。羽田空港アクセス線はもちろん、なにわ筋線も空港へのアクセス向上が路線整備の目的の一つとなっている。今後ますます人口減少が進んでいく中で利用客を繋ぎ止めるためには、航空機をはじめとした他の交通機関とは競合するだけでなく、連携して利便性の向上を図ることも重要になると思われる。

2つ目は新幹線の建設における地方自治体の存在である。地方自治体は整備新幹線の建設費の3分の1を負担することになっているだけに、国やJRは自治体に対して丁寧な説明を行い、協力を得る必要があるだろう。また新幹線だけではなく並行在来線に対しても国が積極的に関与し、沿線自治体と役割分担をして地域輸送と全国の貨物路線網の双方を維持する努力を行うべきだろう。一方の自治体も国やJRから提示された案を検討するだけでなく、自らあるべき地域交通の姿を模索し、JRなどと協力してそれを実現する姿勢が求められていると思われる。

日本で150年にわたって人々の生活を支える重要なインフラとして機能してきた鉄道が、この先も発展を続けることを願いたい。

 

9. 参考文献

JR東日本公式ホームページ「羽田空港アクセス線(仮称)の鉄道事業許可について」(2022/10/07閲覧)

https://www.jreast.co.jp/press/2020/20210120_ho02.pdf

JR東日本公式ホームページ「グループ経営ビジョン『変革2027』について」(2022/10/07閲覧)

https://www.jreast.co.jp/press/2018/20180702.pdf

関西高速鉄道「なにわ筋線について」(2022/10/07閲覧)

http://kr-railway.co.jp/naniwa.html

大阪市「なにわ筋線について」(2022/10/07閲覧)

https://www.city.osaka.lg.jp/toshikeikaku/page/0000427888.html

鉄道・運輸機構「整備新幹線の建設」(2022/10/07閲覧)

https://www.jrtt.go.jp/construction/outline/shinkansen/

鉄道・運輸機構「北海道新幹線」(2022/10/07閲覧)

https://www.jrtt.go.jp/project/hokkaido.html

JR北海道公式ホームページ「北海道新幹線の概要」(2022/10/05閲覧)

https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/shinkansen/index.html

JR北海道公式ホームページ「札幌延伸に向けた取り組み お客様の利便性向上の取り組み」(2022/10/07閲覧)

https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/shinkansen/stretching.html

読売新聞オンライン「長万部―小樽間の在来線廃止へ…北海道新幹線延伸でバスの運行に」(2022/10/05閲覧)

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220327-OYT1T50149/

朝日新聞デジタル「函館線、大部分が廃線濃厚 新幹線アクセス以外は不透明 貨物も分断」(2022/10/07閲覧)

https://www.asahi.com/articles/ASQ806GZVQ80IIPE009.html

朝日新聞デジタル「函館線を貨物線として維持、国が協議へ 北海道やJRと 旅客と分離」(2022/10/07閲覧)

https://www.asahi.com/articles/ASQ9D5RDWQ9DIIPE002.html?iref=pc_rellink_01

JR西日本公式ホームページ「北陸新幹線プロジェクト」(2022/10/07閲覧)

https://www.westjr.co.jp/railroad/project/project1/

鉄道・運輸機構「北陸新幹線」(2022/10/07閲覧)

https://www.jrtt.go.jp/project/hokkaido.html

日本経済新聞「北陸新幹線の全ルート確定 敦賀以西31年着工」(2022/10/07閲覧)

https://www.nikkei.com/article/DGXLASFS15H2U_V10C17A3PP8000/

朝日新聞デジタル「北陸新幹線の金沢−敦賀、開業1年延期 与党PTが了承」(2022/10/07閲覧)

https://www.asahi.com/articles/ASNDH7GK4NDHULFA02R.html

鉄道・運輸機構「西九州新幹線」(2022/10/07閲覧)

https://www.jrtt.go.jp/project/kyushu.html

NHK「令和初の開業も…“つながらない”西九州新幹線」(2022/10/07閲覧)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220921/k10013829031000.html?utm_int=nsearch_contents_search-items_013

JR東海公式ホームページ「超伝導リニアによる中央新幹線」(2022/10/07閲覧)

https://company.jr-central.co.jp/chuoshinkansen/linear/

JR東海公式ホームページ「中央新幹線南アルプストンネル工事における県外流出量を大井川に戻す方策等について」(2022/10/07閲覧)

https://company.jr-central.co.jp/chuoshinkansen/efforts/shizuoka/resources/_pdf/ooigawa-alps.pdf

あなたの静岡新聞「リニア中央新幹線『大井川の水問題』ってなに?」(2022/10/07閲覧)

https://www.at-s.com/news/special/oigawa.html

 

*写真は全て筆者が撮影した。



[1] 正式名称は独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構。日本鉄道建設公団などの流れを汲み、鉄道をはじめとした交通インフラの整備を行っている。


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