新幹線の営業最高速度上昇
平成31年度入学 岡マヒ
1. 初めに
1964年の東海道新幹線の開業から、今年(2019年)で新幹線は開業55周年目を迎えた。55年の歴史の中で、新幹線の営業最高速度は当初の210km/hから320km/hまで上昇し、所要時間も当初よりも大幅に短縮された。普通の鉄道とは次元の異なる速さは新幹線を新幹線たらしめる最大の特徴である。同時に、速度向上と所要時間の短縮には経営戦略や利便性向上などの目的、新技術開発による課題克服といった途方もない向上への試みが常に背景にある。これらはまさに鉄道における限界を「越え続けた」典型例と言えないだろうか?
(左)JR西日本500系,700系,N700系 (岡山駅 2019.08.26)
(右)Railstation.net(http://www.uraken.net/sozai/railstation/uraken/kabegami.html)より引用
2. 速さの歴史
年代順に営業最高速度の変遷や所要時間変化を述べる。
開業前 新幹線のコンセプト自体は「弾丸列車」などと呼ばれ、戦前より計画が進められていたが、1950年代後半以降、輸送力増強の目的もあり、国鉄により在来線とは一線を画す「夢の超特急」として本格的な建造が始まった。計画の中身は標準軌の導入、全線高架線、使用車両のカラーリングやフォルム、ありとあらゆる点で従来の鉄道とは一線を画したものだった。
試験走行車両1001形により、鴨宮―綾瀬間の約30km区間で試験走行が開始され、1963年3月30日には256km/hの時速を記録した。
1964年10月1日 東海道新幹線開業
0系により営業最高時速200km/h運転、東京―新大阪間を「ひかり」最短4時間、「こだま」最短5時間で運行された。それまで、在来線特急は最高時速が120km/hほどで東京―大阪間は最短7時間以上かかっていたところを、同じ鉄道でありながら大幅な速達化を達成した。
1965年 11月1日のダイヤ改正で、営業最高速度が210km/hに、東京―新大阪間を「ひかり」が最短3時間10分で結ぶようになった。
1971年 東海道新幹線の成功を受け、全国新幹線網計画が立案された。
最小カーブ半径を4000m、(東海道新幹線は最小カーブ半径が2500mであり、高速化の上での障害の一つであった)、目安最高速度を260km/hとすることなどが計画に盛り込まれた。
1972年 3月15日に山陽新幹線が岡山―新大阪間で開業(第三次長期化計画の一貫)開業直前には951形試験車両を使い、最高時速286km/hを達成。
1975年 3月10日に山陽新幹線の岡山―博多間が開業、東京―博多間は最短6時間56分で結ばれた。
1975年〜1982年(東海道&山陽新幹線) 新幹線は運賃の値上げを行なった。しかし、高速道路網の拡大と、空港整備、航空輸送ジェット化により、自動車と航空機が対抗馬として台頭、優位性確保が難しくなり、徐々に収益が悪化しだした。そのため、新幹線は速度上昇と所要時間の短縮の必要性に迫られるようになっていた。
1982年 6月23日に東北新幹線が大宮―盛岡間で開業。上越新幹線も大宮―新潟間で開通。後に最高速度240kmで運転するが当初は最高速度210km/hで運転。
1985年 東海道、山陽では100系が登場。しかし、国鉄の経営状態が悪く、100系の導入自体も0系の老朽化などを考えると相当遅れたものであった。
Railstation.net(http://www.uraken.net/sozai/railstation/uraken/kabegami.html)より引用
東北、上越新幹線は上野まで開業。
1986年 東海道、山陽の営業運転最高速度が220km/hまで引き上げられた。
1987年 国鉄民営化
1987年〜1992年頃 航空輸送や自動車が台頭する中、需要確保のため、速達化が目指された。特に需要の伸び悩んだ山陽を管理するJR西日本はいち早く速達化と居住性改善に取り組み、最高時速350km/h運転を目指すべく、試験走行車両500形900番代(WIN350)による高速化実験を行った。
1990年 上越新幹線にて、特殊工事の施された200系による時速275km/h運転が開始された。(1999年まで継続)
1991年 東北新幹線で東京―上野間が開通。
1992年 東海道、山陽新幹線では300系による東海道、山陽新幹線の新しい車両種別“のぞみ”の運転が開始。最高時速270km/hで、東京―新大阪間は最短2時間30分となり大幅な速達化が達成された。
7月には初のミニ新幹線である山形新幹線が山形―福島間で開業し、山形新幹線用に400系が導入された。東北新幹線内では200系と連結し、最高時速240km/h運転が行われた。しかし、山形新幹線内は在来線であるため、最高速度は130km/hで、これは現在まで継続しており、のちに登場する秋田新幹線も同様である。
1996年 試験走行車両955系(300X)が米原―京都間で443km/hを達成。
1997年 500系が山陽新幹線区間で最高時速300km/hで運行開始。東京―博多間が最速ののぞみで4時間49分となった。
東北新幹線ではE2系が投入された、また秋田新幹線が開業し、こちらにはE3系が投入、東北新幹線内では両車両により、最高時速275km/h運転が開始された。(E2系とE3系の併結運転もこの時期に開始された。)
長野新幹線も開業し、専用車別としてあさまが登場。こちらにもE2系(N編成)が使用され、最高時速は260km/hで東京―長野間を最速1時間25分で結んだ。
JR東日本E2系&E3系 (東京駅 2019.08.22)
1997年〜1999年(東海道新幹線) 東海道新幹線では最高速度上昇に伴い、車両スペックに限界のある0系や100系は300系、500系、700系への置き換えが進んだ。
0系は1999年の9月18日の運行を最後に東海道新幹線から引退した。
2002年 東北新幹線の八戸―盛岡間が開業。E2系1000番代が登場し、最速列車として「はやて」が登場。東京―八戸間は最速のはやてで2時間56分で結ばれた。
JR東日本E2系 (仙台駅2019.08.22)
2003年 品川駅の開業などに合わせ東海道新幹線における大幅なダイヤ改正が10月1日に施行。同線内の全列車の営業最高速度の270km/への統一、のぞみの増発などで、さらなる高速化が勧められた。これを受け、営業最高速度が220km/hの100系は東海道新幹線より引退。
2004年 九州新幹線が新八代―鹿児島中央間で開業。
2005年 東北新幹線では、さらなる速達化(目標営業最高速度360km/h)を目指し、試験走行車両E954系(FASTECH360S)、E955系(FASTECH360Z)が登場。設計上、最高速度405km/hで走行可能であり、多くの実験の末、E5系、E6系の開発へと引き継がれることになる。
2007年 N700系が東海道、山陽新幹線で営業運行に投入。車体傾斜装置搭載で、東海道新幹線の区間でこれまでは255km/hまで減速していた区間での270km/h運転が可能になった。これにより東京―新大阪間は最速で2時間25分となった。
2010年 東北新幹線の新青森―八戸間が開通。
2011年 九州新幹線の博多―新八代間が開業し、博多―鹿児島中央間が開通し、山陽、九州の直通運転も開始された。またN700系7000番代、8000番代が投入され、山陽新幹線、九州新幹線を直通する車別として、“みずほ”、“さくら”が登場。それぞれ最速のみずほで、博多―鹿児島中央間は最速1時間16分、新大阪―鹿児島中央間3時間46分で結ばれた。
東北新幹線では最高時速320km/h走行が可能なE5系が登場し、東北新幹線の新しい最速車両種別として“はやぶさ”が登場。(しかし当初は最高時速300km/hでの運転)。最速のはやぶさで東京―新青森は3時間10分となった。
JR東日本E5系 (東京駅 2019.08.22)
2013年 3月16日のダイヤ改正で、E5系の最高速度320km/hが解禁。最速のはやぶさで東京―新青森間が2時間59分となった。また秋田新幹線の新型車両としてE6系が導入され、最高時速300km/h運転を開始し、新しい車別“スーパーこまち”が登場した。
JR東日本E6系 (秋田駅2016.08.20)
2014年 東北新幹線において、E6系の最高時速320km/h運転が開始され、E5系とE6系の併結列車の320km/h運転が可能になった。また東京〜秋田間が全て3時間台で結ばれることとなった。長野新幹線ではE7系が導入された他、新型ATCによる速達化が図られ、東京―長野間での最速1時間20分運転が実現した。
2015年 3月14日のダイヤ改正で東海道新幹線での営業最高速度が285km/hまで引き上げられる。最速ののぞみで、東京―新大阪間が2時間22分、東京―博多間が4時間47分となった。
また同日、北陸新幹線が金沢―長野間で開業し、E7系、W7系が北陸新幹線の運行に投入された。
JR東日本E7系 (東京駅 2019.08.23)
2016年 北海道新幹線の新青森―新函館北斗間が開業。H5系が営業運転を開始した。最高速度は260km/hで、青函トンネル内での最高時速は140km/hであった。
2017年 山陽新幹線にて新型ATC導入、3月4日のダイヤ改正より、さらなる速達化を実現。博多―東京間が最速ののぞみ4時間46分となった。
2019年 3月16日のダイヤ改正で、青函トンネル内の最高時速が160km/hへと引き上げられ、東京―新函館北斗間が最速のはやぶさで3時間58分となった。
6月7日にN700S系が試験走行にて、最高速度362km/hを記録
3. 終わりに
以上新幹線の最高速度上昇と所要時間の短縮を辿ってきたが、やはりその数字は普通の鉄道と比べると圧倒的である。同時に、特徴も見えてくる。一つは、速度上昇が、国鉄民営化でJRに分化して以降盛んになったことである。原因として考えられることは民営化により、競争の必要性に駆られたことであろうか?航空路線や自動車の発達で、それらへ速さの面で対抗しなければならなくなったことのはもちろんだが、やはり国営という後ろ盾がなくなったことで、フラッグシップとも言える新幹線をより進歩させることに各JRが一層力を注ぐようになったと推測できる。
民営化以降、新幹線の速達化は毎年のように続いている。新型車両による最高速度上昇はもちろん、ダイヤ改正、新技術の導入などあらゆる面からのアプローチで速達化が図られ続けている。
時速500km/h超えの運転を行うリニア中央新幹線の開業は言わずもがなだが、N700S系の導入、上越新幹線での車両置き換えによる速達化(E4系をE7系に置き換え、最高時速240km/h→275km/hの実施など)など2020年以降の新幹線速達化の計画もすでに提示されている。まさに際限知らずである。
余談になるが、筆者は夏休み中の8月に、品川から岡山まで新幹線を使い、高松から東京までサンライズエクスプレスに乗る機会を得た。サンライズでは、岡山から東京までは、岡山を夜10時半頃に出発し、翌日の朝7時過ぎにやっと東京へ到着と9時間半近くもかかった。しかし、新幹線では品川を朝9時前に出発し、昼の12時半前には岡山に到着とわずか3時間半近くであった。東京(品川)―岡山区間を、新幹線は在来線特急の3分の1ほどの時間で結んでしまう。同じ線路の上を走る鉄道でありながら、これほどまでの差異を生み出す新幹線はやはり驚異的と言えないだろうか?しかもこの速さは来年以降も上昇し続けるというのだから圧巻だ。その圧倒的速さ(速度、所要時間双方の意味で)には強烈なロマンが感じられるように思う。改めて、新幹線は鉄道における限界を“越え”続けてきた最たる例と言えないだろうか? 普通の鉄道と決定的に違っている。だからこそ我々は惹かれるのではないだろうか?
4. 参考文献
「ダイヤ改正について JR東日本」
https://www.jreast.co.jp/press/2002_1/20020911/pdf/shinkansen.pdf (2002年)
https://www.jreast.co.jp/press/2012/20121215.pdf (2013年)
https://www.jreast.co.jp/press/2013/20131217.pdf (2014年)
https://www.jreast.co.jp/press/2014/20141222.pdf (2015年)
https://www.jreast.co.jp/press/2015/20151211.pdf (2016年)
https://www.jreast.co.jp/press/2016/20161219.pdf (2017年)
https://www.jreast.co.jp/press/2017/20171213.pdf (2018年)
https://www.jreast.co.jp/press/2018/20181213.pdf (2019年)
(以上全て2019年10月22日閲覧)
『鉄道ピクトリアル 1988年1月特大号』(電気車研究会)
『鉄道ピクトリアル 1989年10月号』(電気車研究会)
『鉄道ピクトリアル 1991年2月号』(電気車研究会)
『鉄道ピクトリアル 1992年9月号』(電気車研究会)
『鉄道ピクトリアル 2004年1月号』(電気車研究会)
『新幹線EX(エクスプローラー)50号』(イカロス出版・2019年)
佐藤信之『新幹線の歴史 政治と経営のダイナミズム』(中公新書・2015年)
「写真素材Railstation.net:新幹線」
http://www.uraken.net/sozai/railstation/uraken/kabegami.html (2019年10月23日閲覧)
(左)JR西日本500系(岡山駅 2019.08.26) (右)JR西日本285系(高松駅 2019.08.28)
写真は特記以外全て筆者が撮影