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仙石東北ライン

平成30年度入学 岳ヒナ

 

1.はじめに

 今年の駒場祭での展示テーマは「“こえる”鉄道」ということで、東北本線、仙石線、石巻線の3つの路線、そして交流、直流、非電化の3種類の電化方式をこえて走行する仙石東北ラインについて特集する。

 

2概要

 仙石東北ラインは2015年に開通した仙石線・東北本線接続線を通る運転系統につけられている愛称である。具体的に言うと、仙台駅から塩釜駅までは東北本線、そこから東北本線の塩釜―松島と仙石線の松島海岸―高城町を通る接続線を通り、高城町駅から先は仙石線を通る。また、一部列車は石巻駅から石巻線を通り女川駅まで直通する。

 運賃計算上では松島駅を経由する(全列車通過)扱いであり、開通した際に松島―高城町に0.3kmの営業キロが設定された。このため、仙石東北ラインを通る100km以上の乗車券では松島駅で途中下車することができ、高城町駅までの徒歩連絡もできる。一方で、仙台近郊区間内で大回り乗車をするとき、仙石東北ラインに乗車した後石巻→小牛田というルートで東北本線に乗った場合、乗車できるのは愛宕駅までである。

 

3.仙石東北ライン開通の経緯

 それでは、なぜこの仙石東北ラインが開通することになったかの経緯を簡単に説明する。もともと仙石線は1925年に宮城電気鉄道の路線として開業した。当時は交流電化方式は実用化されておらず、直流電化方式で運行を開始した。また、東北本線は現在の利府支線側から内陸部を通っていた。その後1944年に仙石線が国有化されさらに東北本線の現在の海側ルートが開業、1961年に東北本線が交流電化方式で電化されるも、仙石線の電化方式は直流のままとなった。このようにして二つの平行路線が違う電化方式となり、当時から接続線の構想はあったものの長い間実現はしなかった。

 この接続線の新設のきっかけとなったのは2011年に起きた東日本大震災である。仙石線が通る松島町や東松島市周辺では津波により線路や車両が流されるなどの甚大な被害を受け、長期間の運休を余儀なくされた。そこで、仙石線の周辺地域の復興支援の一環として接続線が新設されることになった。

 もちろん復興支援以外にも理由がある。特に重要なのが仙石線の速達化だ。震災前も仙石線では快速列車が運行されていた。しかし、列車の本数や通過駅も多い仙台-多賀城間に待避設備がなく、快速運転の意味があまりなかった。また、仙石線の東塩釜以東は単線になっているため、列車の本数にも限界がある。そこで、駅数が少なく複線となっている東北本線を事実上の快速線として使うことにより、アクセスの向上を図っている。

 このような経緯で、2013年に国土交通省から事業の許可を受け建設開始、2014年に「仙石東北ライン」の名称を発表した。そして2015530日、仙石線全線復旧と同時に仙石東北ラインが開業した。開業当初は仙台―石巻のみの運行だったが、2016年には石巻線を通り女川駅まで直通するようになった。

 

4.車両

 

(左)HB-E210系気動車の前面(石巻駅 2016.07.28

(右)車内の液晶画面(HB-E210系車内 2016.07.28

 先ほども述べたように、仙石線と東北本線では電化方式が違い、さらに接続線部分と石巻線は非電化となっている。そのため、仙石東北ラインではHB-E210系気動車というハイブリッドシステムを搭載したディーゼル車が使われている。仕組みを簡単に説明すると、交流電化区間では通常の電車と同じようにパンタグラフで電力を受けながら車両に搭載されている蓄電池を充電する。非電化区間や直流電化区間に入ると蓄電池からの電力やエンジンでの発電による電力を使用し、ブレーキ時に回生ブレーキで充電をおこなう。環境に配慮した最新技術を使っていることが評価され、2016年に技術面で優秀な車両を評価するローレル賞を受賞している。

JR東日本ではこのようなハイブリッド気動車は前例がある。山梨県、長野県を走る小海線のキハE200形気動車だ。この車両は2007年に世界初のハイブリッド式気動車として運用を始め、こちらも2008年のローレル賞を受賞している。

 

5.運行形態

 仙石東北ラインは、概ね上り下りでそれぞれ1時間に1本、1日では各14本ずつとなっている。そのうち、11往復は特別快速、それ以外は全て快速となっている。

1.仙石東北ラインの各種別の停車駅

2.仙石東北ライン下りの主な駅の時刻表

3.仙石東北ライン下りの主な駅の時刻表

仙石東北ラインの種別ごとの停車駅や時刻表はこのようになっている(時刻表の赤背景は特別快速)。特別快速は仙台―石巻を49分で、快速は通過駅が多い列車だと最速で52分で走行する。快速には大きく分けて東仙台―国府多賀城の各駅に停まる昼間のパターン(赤快速)と停まらない朝及び夕方以降のパターン(緑快速)がある。朝や夕方に関してはこの区間を通過することによって石巻方面との速達性を上げ、東仙台―国府多賀城の利用客を東北本線に乗せることで混雑を回避する目的があると考えられる。一方で、昼間は仙石東北ラインの開通で減便となった松島行、松島発の列車の分を補う目的でこの区間は各駅停車となる。

 また、石巻あゆみ野駅の近くにある石巻西高校や石巻高等専門学校への通学利用者、その他周辺施設への通勤利用者向けに8時頃と18時頃に上下各1本ずつが石巻あゆみ野駅に停車する。

 下り列車の最終便と上り列車の始発便はそれぞれ女川行、女川発となっている。開通当時は全列車が石巻止まりだったが、20166月から直通運転が始まった。また、その以前に女川駅の始発終電だった石巻線は石巻発着に変更された。

 

6.地域にとっての開通前後の変化

 ここまで仙石東北ラインについていろいろ書き連ねたが、この路線の開通でどう変化したのかという点について考察していきたい。ただし、仙石東北ラインの開通直前は震災の影響で不通区間があり、比較するには不適切なため、基本的には震災前と比較する。

 まず全体、というより仙台―石巻についてだ。近年、日本各地で高速バスや都市間バスが発達しており、鉄道のライバルとなっている。東北地方では盛岡―宮古が有名だろう。この区間はJR山田線が通っているが、並行路線として走る岩手県北バスの106急行バスが時間と値段がほぼ同じ、本数が山田線は14本に対しバスは1時間に一本と圧倒的優位に立っている。仙台―石巻では宮城交通の高速バスが運行されている。JRの仙台―石巻が858円に対し、高速バスは820円となっている。また、高速バスは約1時間10-20分で走行する。一方、震災前の仙石線の快速列車は約65分だった。これが仙石東北ラインの開通により約55分となり10分ほど短縮したことで所要時間の面で鉄道がさらに有利となった。また、石巻あゆみ野駅が新しく開業したことにより車を使えない学生向けの需要に対応し、さらに震災復興でできた住宅地の利便性も上げている。

 一方で、東松島市には一つだけ利便性が下がった駅がある。東矢本駅だ。この周辺の駅は快速の時間短縮の恩恵を受けているが、東矢本駅だけは震災前は快速が停車していたにもかかわらず現在は快速列車が通過となっている。そのため、本数がかつての半分ほどになっており、その上仙台に行くためには普通列車で行くことになり以前に比べて15分ほど所要時間が長くなっている。

 次に、松島町周辺について考察する。松島町は住宅地や漁港など居住の拠点が高城町駅周辺、瑞巌寺や観光船の桟橋など観光の拠点が松島海岸駅周辺、その中間、高城町駅寄りに松島駅があり、それぞれは歩けなくはないが1-2kmほど離れている。ダイヤ改正により仙石東北ラインが増えた分松島駅始発の東北本線が減便したが、高城町駅の方が住宅地に近いため利便性は上がっていると考えていいだろう。一方、松島海岸駅はもともと快速停車駅だったが普通列車しか来なくなり、仙石東北ラインは松島駅よりもさらに遠い高城町駅にしか来ないため、観光目的で松島に行くためには「仙石線の普通で直接仙台から来る」、「東北本線で松島駅に行き1.5km歩く」、「高城町駅まで快速で行き普通で戻る」の微妙な3択を迫られることになる。

 次に塩釜市のあたりを見てみよう。この地域は全体的に住宅地が広がっており、本塩釜の駅近くには魚市場や鹽竈神社などの観光地がある。こちらも快速停車駅だった東塩釜駅、本塩釜駅は少し不便になったが、一方で西塩釜駅や下馬駅は普通が増えたことで利便性が上がっている。また、塩釜駅については本数も増えた上に、以前はなかった仙台駅までノンストップの列車が1時間に1本ほど来るようになり利便性が格段に上がった。しかしながら、そもそもとして郊外は車社会化が進んでいるため乗降客数は減っている。

 仙台市西部にある仙石線の榴ヶ岡―中野栄においては、利便性が上がったと言えるだろう。午前中や夜の時間帯にはこの区間を通過する快速が運行されていたが、それがほぼそのまま仙石東北ラインになったためその分普通が1時間に1本増便された。もともとそこまで集中的に混む時間帯ではないにせよ、待避できない快速のせいで次の普通が20分後、という事態がなくなったのは大きい。

 一方で、東北本線の東仙台―国府多賀城については基本的に松島行が仙石東北ラインに置き換わっている。上に載せた時刻表から分かるように昼間は本数の確保のためこの区間も停車するが、実は仙石東北ラインの本数以上の減便があったため不便になっている。また、朝や夜の時間帯は普通列車の減便自体はないものの、快速が通過するためあまり変わっていない。

 ここまでをまとめると、仙石線の仙台近辺、石巻近辺についてはかなり利便性が上がっているが、それ以外の地域に少ししわ寄せがきていると言えるだろう。

 

7.おわりに

 というわけで今回は、震災を乗り「こえて」運行を開始した仙石東北ラインについて書き連ねた。実際のところ、沿線地域は人口の減少や車社会化によって鉄道が苦境に立たされがちな地域ではある。しかし、2018年には連絡線の途中で一時停止しなければいけないという問題を解消するなど、少しながらも利便性を上げている。震災からの復興が完ぺきとはまだ言い切れない地域もあり、これからもそのような地域を支える路線になっていってほしい。

 

8.参考文献

「日経XTECH 仙台─石巻52分、鉄路復活とともに新ルート開業」

https://tech.nikkeibp.co.jp/kn/article/const/column/20150526/701290/?ST=const 2019923日閲覧)

2018年ダイヤ改正について」

              https://jr-sendai.com/upload-images/2017/12/20181215.pdf 2019926日閲覧)

「蓄電池駆動システムにおける最新技術と展望」

http://www.hitachihyoron.com/jp/archive/2010s/2016/10-11/pdf/2016_10_11_02.pdf 2019926日閲覧)

JR時刻表 20194月号』(交通新聞社・2019年)

写真は全て筆者が撮影した。また、表は全て筆者が作成した。


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