鉄道会社における女性活躍推進
平成30年度入学 近ナラ
1.はじめに
女性の深夜業規制が1999年に解禁されてから今年で20年となった。女性乗務員が多くなったと感じるという人は少なくない。今回従来の男性中心の職場であった鉄道会社においてそれぞれの会社がいかに女性の活躍を後押ししてきたかについて述べる。
2.日本の制度
(1)男女雇用機会均等法・女性活躍推進法
均等法については2007年4月1日施行されたものについて、1.女性差別禁止だけでなく男女双方の差別を禁止し、2.雇用の各ステージにおける差別的取り扱いの禁止、3.ポジティブ・アクションの推進の3つを押さえておくと良い。ポジティブ・アクションについては、女性差別禁止規定のみでは男女比の是正ができないため、女性を有利に扱う取り組みが認められている。
女性活躍推進法について、厚生労働省によると301人以上の労働者を雇用する事業主は平成28年4月1日から 1.自社の女性の活躍状況の把握・課題分析、2.行動計画の策定・届出、3.情報公表などを行う必要がある。
1.自社の女性の活躍状況を把握し、課題分析を行う
次の女性の活躍状況(基礎項目1~4)については必ず把握し、課題分析を行う。
1採用者に占める女性比率 2勤続年数の男女差 3労働時間の状況 4管理職に占める女性比率
2.行動計画の策定、社内周知、公表、届出を行う
ステップ1の結果を踏まえて、女性の活躍推進に向けた1行動計画の策定、2労働者への周知、3外部への公表、4都道府県労働局への届出を行う。
1行動計画には、(a)計画期間 (b)数値目標 (c)取組内容 (d)取組の実施時期を盛り込む。
3.自社の女性の活躍に関する情報を公表
優秀な人材の確保と企業の競争力向上につなげるため、自社の女性の活躍に関する情報を公表する。
(2)育児・介護休業法
特に女性に限らず男性にも関係する。育休は産前6週間、産後8週間、医師が認めれば産後6週間経過後に勤務可能。会社での育児時間を1日2回各々少なくとも30分請求できる。子が1歳に達するまで、夫婦がともに育児休業を取得する場合子どもが1歳2ヶ月になるまで、事情があれば1歳6ヶ月まで休める。細かいことはそのような立場になってからお調べいただきたい。
介護休業:2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態にある対象家族を介護するためにする休業。93日が上限。
介護休暇:要介護状態にある対象家族が1人年5日、2人以上の場合は10日。
3.鉄道会社について
(1)東急
[1]均等法・女性活躍推進法に関する事項
取締役は17人(男性16人、女性1人)。2018年7月1日現在。
そのほかは表にある通り。
東急が掲げている目標値は
・女性管理職比率 達成目標年度 2020年度 目標数値 40人・10%
・女性取締役数 達成目標年度 2020年 目標数値 1人
・女性正社員比率 達成目標年度 2020年度 目標数値 16.8%
自己分析なさった報告は
課題1:女性社員比率が低い
課題2:女性の勤続年数が男性と比較して短い
課題3:社内における女性活躍推進に関する理解が十分に浸透していない。結果として、管理職に占める女性割合が低い。
取組内容:
①セミナー等を通じた風土醸成及びマインド醸成を図る。
②ワークスタイル・イノベーションの推進及び管理職対象人事考課の仕組みの見直しを図る。
③総合職の女性採用比率引き上げを図る。
女性リーダーの育成のために人材をプログラムに派遣していることがホームページに書いてあった。
2015年度 |
2016年度 |
2017年度 |
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管理職数(執行役員含む)※ |
274人 |
295人 |
341人 |
|
男性 |
263人 |
280人 |
332人 |
|
女性 |
11人 |
15人 |
19人 |
|
管理職に占める女性比率 |
4.0% |
5.1% |
5.6% |
|
従業員数 |
4,302人 |
4,402人 |
4,535人 |
|
男性 |
3,676人 |
3,714人 |
3,794人 |
|
女性 |
626人 |
688人 |
741人 |
|
在籍人員に占める女性比率 |
14.6% |
15.6% |
16.3% |
※2018年3月末時点で、東急株式会社からの出向者を含み、東急株式会社への受入出向者を含まない、女性管理職数は24人、管理職比率は5.0%
(表1 東急株式会社女性比率)
[2]育児・介護に関する事項
・法定以上の介護休業制度(1年間の休業)
・介護休業からの早期復職者に対し、在宅勤務を導入
くるみんには2007年に認定。くるみんとは次世代育成支援対策推進法に基づくもの。東急が現在持っているのは2015年3月31日までに認定申請し、認定を受けた企業が表示することができるマーク。2017年4月1日からの新しい認定基準を満たし、より多方面から評価された子育てサポート企業に付与されるマークではない。
|
2015年度 |
2016年度 |
2017年度 |
|
育児休職 |
57人 |
66人 |
105人 |
|
|
男性 |
23人 |
35人(34%※) |
63人(51.6%※) |
女性 |
34人 |
31人 |
42人 |
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介護休職 |
1人 |
3人 |
1人 |
|
|
男性 |
1人 |
2人 |
1人 |
女性 |
0人 |
1人 |
0人 |
※男性育児休職取得率
(表2 東急株式会社育児・介護休職比率)
(2)小田急
[1]均等法に関する事項
現状のデータに関しては小田急ホームページに記載がなかったので厚生労働省のデータベースから数字を引っ張ってきた。
課題1 : 管理職における女性の割合が低い。
課題2 : ワークライフバランスを推進する風土を築けていない。
課題1に対する目標として、平成32年度までに女性管理職比率を課長クラス、課長代理クラスともに平成25年度の倍以上にする。計画期間に関わらず、長期的に女性管理職数を増加させるため、新卒採用の総合職における女性採用比率を30%以上とする。の2つある。
課題2に対する目標としてワークライフバランスを促進する風土を醸成する。
・(数値目標として)平成32年度までに男性育児休業取得者数を平成25年度取得実績の倍以上にする。
・(数値目標として)平成32年度までに女性従業員(正社員)比率10%まで引き上げる。
採用した労働者に占める女性労働者の割合(総合職)52.9%(エキスパート職)23.3%
労働者に占める女性労働者の割合(本社)15.7%(現業)5.9%
係長級にある者に占める女性労働者の割合 5.6%
管理職に占める女性労働者の割合 4%
女性活躍推進に関する数値目標
・新卒採用の総合職における女性比率を30%以上とする。
・2020年度末までに女性管理職を課長クラス、課長代理クラス共に、2013年度末の倍以上にする。
・2020年度までに男性育児休業取得者数を、2013年度取得実績の倍以上にする。
・2020年度までに女性従業員(正社員)比率を10%まで引き上げる。
女性を対象としたワークショップを開催し、直接会社からのメッセージを伝えるとともに、働きがいなどについて考える場を設けている。同様に、女性を部下に持ったことのある管理者を対象としたワークショップも開催。
[2]育児・介護に関する事項
小田急がデータベースで公開していることとして、数値効果(2017年度実績)は
・ 女性育休取得率・復職率 100%
・ 男性育休取得率 13.9%
・ 配偶者出産休暇取得率 92.6%
法の規定を超えて
・最長で3年間、回数の制限なく介護休業の取得が可能
・介護短時間勤務制度の取得により、最長3時間30分/日、労働時間の短縮が可能
育児においては、短時間勤務制度を子が小学校4年生の修了まで、宿泊勤務を伴う鉄道係員は宿泊勤務の回数を一部免除できる制度を子が小学校を修了するまで、それぞれ取得できるほか、配偶者出産休暇を有給で5日取得できるなど。
管理職セミナーや介護セミナー、復職セミナーなどを開催。その他にも妊娠した女性が産前休暇に入る前に本人・上司・人事部で行うプレママ面談や、当社従業員向け福利厚生サイト「小田急ワークライフサポートナビ」など、制度内容の周知と利用しやすい環境づくりに努めている。
プラチナくるみんに指定されている。
「プラチナくるみんマーク」は、くるみんマークを取得している企業のうち、さらに両立支援の取組が進んでいる企業が一定の要件を満たし、特例認定(プラチナくるみん認定)を受けた場合に表示できるマーク。
4.おわりに
以上のような比較で見えてきたこととして、仕事と家庭の両立では東急より小田急の方が、認定が進んでいることがわかった。小田急もホームページでさらに詳しい情報を開示しても良いと思った。
それぞれの路線や車両に目を向けるのも良いが、たまには会社本体について考えてみるのも面白いだろう。機会があれば他の鉄道会社の取り組みも調べてみたい。
5.参考文献
岡田良則・桑原彰子『育児介護休業・出産・母性保護のことならこの1冊』(自由国民社・2012年)
神田遵『均等法・母性保護・育児介護休業 Q&A』(労務行政・2008年)
財団法人21世紀職業財団[編]『詳説 男女雇用機会均等法』(財団法人21世紀職業財団・2007年)
「小田急電鉄株式会社ホームページ 社会から信頼されるための取り組み」https://www.odakyu.jp/company/csr/management/#women_empowerment (2019年9月24日閲覧)
「東急株式会社ホームページ 人材に関するデータ」https://www.tokyu.co.jp/company/csr/diversity/performance/ (2019年9月24日閲覧)
「厚生労働省女性の活躍推進企業データベース 小田急電鉄株式会社」
http://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/detail?id=1052 (2019年9月24日閲覧)
「厚生労働省女性の活躍推進企業データベース 東急株式会社」
http://positive-ryouritsu.mhlw.go.jp/positivedb/detail?id=1051 (2019年9月24日閲覧)
「厚生労働省女性活躍推進法特集ページ」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html (2019年9月27日閲覧)
*表1、表2ともに「東急株式会社ホームページ 人材に関するデータ」から筆者編集。