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建築デザインと鉄道車両デザイン

平成31年度入学 四カマ

 

1.はじめに

 鉄道車両の設計は、国鉄時代には、D 51の設計者である島秀雄氏や0系新幹線の設計に携わった島隆氏など、国鉄の鉄道技術者が担当することが多かった。また、メンテナンスや車両のやりくり等に必要なコストを抑えるために、車両の基本的なデザインは全国でほぼ統一されていた。しかし近年、鉄道車両のデザイナーのジャンルは多角化し、斬新なデザインの車両が次々に登場している。例えば、高級車フェラーリなどのカーデザイナーとして「ケン・オクヤマ」の名で世界的に有名な奥山清行氏は、E6系・E7系新幹線、クルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」、通勤型電車ではE235系などのデザインを監修している。このようにジャンルを「越える」鉄道車両のデザインが増える中、今回は、建築という一見鉄道車両とは関わりの薄いジャンルのデザイナー・企業が手がけた鉄道車両について紹介していきたい。

 

2.鉄道車両を手がけた建築家

 ここでは、鉄道車両を手がけた代表的な建築家の方々(敬称略)と、手がけた車両を紹介する。

(1)岡部 憲明

 岡部憲明氏は、1947年生まれの建築家である。早稲田大学理工学部建築学科を卒業後、設計事務所に勤務したのち、フランス政府の給費研修生としてフランスやイタリアで活躍。フランス政府公認建築家となった。現在は帰国し、岡部憲明アーキテクチャーネットワークを主宰する。鉄道車両以外の代表作には、関西国際空港の旅客ターミナルビルなどがある。

 [] 小田急ロマンスカー「VSE」「MSE」「EXEα」「GSE

 小田急では、1996年に展望席を持たないロマンスカー「EXE」を導入したが、同時期に箱根特急の利用者が大幅に減少したことなどから展望席の重要性を再認識し、ロマンスカーブランドの復権を目指して新型特急車両を製造することを決定した。設計にあたっては、これまでにない車両を作るという観点から鉄道車両を手がけたことのない外部のデザイナーに依頼し、これに対して「技術面を含めて総合的なデザインをしたい」と回答したのが岡部氏であった。岡部氏は実際にロマンスカーに何度も乗車した上で小田急や車両メーカーに対して様々な提案・要求を行い、その結果2005年に登場したのが50000形「VSEVault Super Express)」である。

 それまでの展望席付きロマンスカーは11両連接車であったが、「左右対称のデザインにした方が安定感が増す」という岡部氏の要望により10両連接車とし、展望席のある先頭部は3次元曲線で構成された流線形とした。また内装に関しては、車両の愛称の由来にもなった2,550mmの高さで大きく円弧を描くボールト天井を採用したほか、岡部氏の提案により展望席以外の座席は窓側に5度の角度をつけて配置され、通路側の座席からでも景色が楽しみやすくなっている。

 「VSE」は2005年度の日本産業デザイン振興会「グッドデザイン賞」、2006年の鉄道友の会「ブルーリボン賞」を受賞した。

 その後、日本初となる地下鉄線直通の座席指定制特急列車として2008年に登場した60000形「MSEMulti Super Express)」、登場後20年を機に2017年から順次リニューアルを実施している30000形「EXEα」、老朽化した「LSE」の置き換えと輸送力増強などを目的として2018年に登場した70000形「GSEGraceful Super Express)」も、外観・内装デザイン共に岡部氏が担当している。

 

列車, トラック, 輸送, 空 が含まれている画像

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(左)小田急50000形「VSE」(豪徳寺 2019.09.19

(右)小田急60000形「MSE」(千歳船橋 2019.09.19

 

列車, トラック, 空, 輸送 が含まれている画像

自動的に生成された説明 列車, トラック, 輸送, 屋外 が含まれている画像

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(左)小田急30000形「EXEα」(豪徳寺 2019.09.19

(右)小田急70000形「GSE」(千歳船橋 2019.09.19

 

 [] 箱根登山鉄道「アレグラ号」

 3000形「アレグラ号」は、箱根登山鉄道の輸送力増強を目的に、「伝統と現代性を併せ持ち、箱根の風景に溶け込むデザイン」をコンセプトとして2014年に登場した。箱根の自然景観を車内から最大限楽しめるよう、可能な限り大きなフロントガラスを採用し、側面についても床から天井面に至る大きな窓とした。車体色は、従来から箱根登山鉄道のイメージカラーでもあり箱根の四季の景観の移ろいにも呼応する深い緋色や茜色をベースとした「バーミリオンはこね」という色を基本色としている。景色を楽しむための車両という特性上、内装は落ち着いたやさしい雰囲気で装飾も目立たないようデザインされ、大きな窓から取り込んだ箱根の雄大な自然をより効果的に見せるデザインとなっている。

空, 列車, 屋外, トラック が含まれている画像

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箱根登山鉄道3000形「アレグラ号」(強羅 2016.08.12

 

(2)妹島 和世

 妹島和世氏は、1956年生まれの女性建築家である。同じく建築家の西沢立衛らと共に「SANAA」を運営する。ガラス張りの建物として有名な金沢21世紀美術館や、JR日立駅の橋上駅舎・自由通路などを設計。数多くの受賞歴を持つ。

 [] 西武鉄道「Laview

 西武001系「Laview」は、従来の特急車両である10000系「ニューレッドアロー」の後継として2019年に運行を開始した。妹島氏がデザイン監修を担当している。デザインコンセプトとして「都市や自然の中でやわらかく風景に溶け込む特急」「みんながくつろげるリビングのような特急」「新しい価値を創造し、ただの移動手段ではなく、目的地となる特急」を掲げ、「いままでに見たことのない車両」として設計された。

 女性デザイナーが中心となって開発されたためか、インテリア・エクステリア共に丸みを帯びたデザインが目立つ。とりわけ特徴的なのは先頭部で、斬新な球面形状のデザインを採用。客室の窓もかなり大型で、黄色い座席と相まって明るい車内を作り出している。また、銀色のアルミ合金車体にさらにシルバーメタリックの塗装を施し、周りの風景に溶け込む工夫がなされている。

 

列車, 建物, プラットフォーム, トラック が含まれている画像

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西武001系「Laview」(池袋 2019.09.24

 

(3)若林 広幸

 若林広幸氏は、1949年生まれの建築家であり、プロダクトデザイナーでもある。インハウスデザイナーとして活躍し、独立後はインテリアの設計事務所を自営。駅として初めてグッドデザイン賞を受賞し近畿の駅百選にも選ばれた京阪宇治駅も手がけた。

 [] 南海電鉄「ラピート」

 南海50000系「ラピート」は、1994年の関西国際空港開港・南海空港線開業に合わせて登場した特急車両で、車両デザインを若林氏が担当した。空港への「アクセスロビー」をキーワードに、デザインコンセプトは「レトロフューチャー」とし、ハイテクなイメージを抑えて重量感を重視。ファンの間で「鉄人28号」とも呼ばれる、力強さと速さを融合させた特異でダイナミックな先頭形状とした。空港アクセスを担うことから航空機のイメージを取り入れて側面窓は全て楕円形としたほか、車内外の各所のデザインにも楕円を採用している。ほぼ全ての窓を楕円形で統一した車両は、この南海50000系「ラピート」が日本で初めてである。

 

列車, プラットフォーム, 駅, 建物 が含まれている画像

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南海50000系「ラピート」(関西空港 2017.01.02

 

3.鉄道車両を手がけた住宅メーカー

 住宅メーカーが鉄道車両の内装デザインに携わった事例もある。ここでは「サンライズエクスプレス」を紹介する。

(1)ミサワホームと「サンライズエクスプレス」

 ミサワホームは、省資源・木の代替材の開発・リサイクルという3つのテーマのもと、工場で生産できる新しい素材「M-Wood」を開発。木の製材のときに出る端材などを再利用しつつ色合いや肌触りは木そのものという画期的な素材で、天然の木材が苦手とする耐久性や耐水性も克服した。鉄道車両の不燃性基準も満たすこの素材が、従来の鉄道車両に無いような温もりのある空間を目指した寝台特急「サンライズエクスプレス」の内装に採用され話題となった。

 

列車, トラック, 建物, 駅 が含まれている画像

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(左)285系「サンライズエクスプレス」(東京 2016.08.03

(右)「サンライズエクスプレス」の車内通路(東京 2016.08.03

 

4.参考文献

青田孝『箱根の山に挑んだ鉄路「天下の険」を越えた技』(交通新聞社・2011年)

『鉄道のテクノロジー 第12号』(三栄書房・2011年)

『鉄道ファン 第639号』(交友社・2014年)

『鉄道ジャーナル 第330号』(鉄道ジャーナル社・1994年)

川辺謙一『寝台車の世界』(交通新聞社・2017年)

 

*写真は全て筆者が撮影した。


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