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鉄橋〜越える線路〜特に桁橋の魅力について

平成29年度入学 水カツ 

 

1.  はじめに

 地面を歩いているといつかは川にぶつかる。我らが祖先は切った木を対岸に倒し、その上を渡った。橋の誕生である。橋は有史以来人間を此岸から彼岸へと渡してきた。1830年にイギリスで鉄道が誕生すると、橋は鉄道車両を渡すようになった。鉄橋の誕生である。

 何事も、無くては始まらないものがある。鉄道が川や谷、住宅など自然または人工の障害物あるいは道路、鉄道など他の交通機関との交差が避けられない場合、鉄橋がなくてはそれらを越えることはできない。鉄橋は「越える線路」なのだ。

 筆者は常磐線ユーザーである。茨城県南の某駅から上野駅まで片道1時間を通学している。常磐線E531系は最寄り駅から上野駅までに、利根川、江戸川、中川、荒川、隅田川と主に5本の大河川を越える。車窓を流れる橋の構造物を見ながら、ふと思う。鉄橋が無かったら、私は家から数キロメートルのところで立ち往生してしまうだろう、と。普段スイスイと鉄橋を渡る列車を当たり前だと思っているが、よく考えたら有り難いことである。

 ……と、「越える線路」、鉄橋の物理的必要性と有り難さを述べたが、筆者にとって鉄橋の魅力は現実的有用性よりもその危うさにあるのだ。

 危うさとは何か?土木分野の話は文系人間の筆者にはてんでわからない。むしろ「鉄橋は丈夫」だと信じている。なおさら危うさとは何なのか?それは、空中に渡された二本のレールの上を、レールよりも幅のある台車上の客車部分を載せて走り抜けるという、その印象におけるデンジャラス感なのである。綱渡りまでのハラハラ度はないが、あの重い鉄の塊が高速で二本の綱の上を通過する事実。「鉄橋は丈夫」「計算し尽くされ、徹底管理されているから車両の転落はありえない」と分かっていても、列車が鉄橋をガタンゴトンガタンゴトンと渡るのを見ていると、やはり「なんかアブナイ」というまさにアブナイ魅力を感じざるを得ない。

 ここまでお話すれば大体お分かりかと思うが、筆者が好きな鉄橋は桁橋である。しかもレールと枕木を主桁(橋台、橋脚に直接支えられる構造物)で直接支える開床式の桁橋である。いわゆる鉄橋といって真っ先に思い浮かぶトラス橋にある床版や壁のようなガードは、桁橋にはない場合が多い。障害物の上に橋桁とレールが渡されているだけなのだ。人類が丸太を川に架けたのが原始的な橋なのだとすれば、桁橋は鉄橋において原始的な橋ということになろう。

 

2.  鉄橋の種類

 ここで、鉄橋の種類について概観したい。『世界大百科事典』22巻の「橋」の項目では、橋には大別して8種類あるとされている。筆者の好きなスラブ橋、桁橋、トラス橋、連続橋(カンチレバー橋)、斜張橋、アーチ橋、ラーメン橋、つり橋である。各橋の特徴は以下の通り。

 

スラブ橋:コンクリート床版(スラブ)をそのまま主桁とする橋。形がすっきりしていて、橋桁の厚みが小さいが、支間が25メートルを越えると自重が大きく不経済となる。

 

桁橋:もっとも多く見られる。木材、鉄筋コンクリート、プレストレスコンクリート、鋼材による梁を主桁とする。鋼板で組み立てた桁はプレートガーダーplate girderと呼ばれる。

 

トラス橋:長い支間をトラスと呼ばれる骨組みで補強する橋。鉄道橋に一般的。

 

連続橋(カンチレバー橋):桁またはトラスが不連続点なしに3つ以上の支点で支えられた橋。連続橋を適当な位置で切断し、ヒンジを挿入する橋をカンチレバー橋という。

 

斜張橋:塔から斜めに張ったケーブルで主桁をつった橋。形態の多様さを持ち、適用範囲が極めて広い。

 

アーチ橋:上に弓形に反ったアーチを主桁とする橋。

 

ラーメン橋:主桁と橋脚とを剛に連結して一体とした構造の橋。大きな支間には使えない。

 

つり橋:空間に張り渡したケーブルに沿って橋床をつった橋。他の橋に比べて剛性が弱く、風による不安定振動を生じないよう補剛桁など配慮を要する。

 

3.  桁橋の魅力

 先に述べたが、筆者は鉄橋のなかでも特に桁橋に魅力を感じる。その理由は鉄橋の持つ「危うさ」が最大限に感じられるからである。桁橋は構造が単純で、それ故に建設費が比較的安く済む分、アーチ橋やつり橋のような壮大さや充実した設備はあまり見られない。小川や道路を越えるために架けられるため、都市部のみならず郊外や田園、山林でも容易に見つけることができる。開床式単純支持桁橋は全長が短いためにガードなど落下防止設備がついていない場合が多い。人や車が渡る橋にはほぼ設けられている手すりやガード、壁などが鉄道橋にはないのである。これは軌道輸送の安定性がなせる業であろうが、それが返って印象としての「危うさ」を増幅するのである。

 「危うさ」に加え、桁橋の魅力はその「展示性」である。橋桁の上を車両が通る際に、ガードや壁が無いので車両全体が遮るものなしに観察できる。地上の線路だって障害物がなければ車両全体を観察することはもちろん可能なのだが、なぜか桁橋を走行する車両は地べたを走るそれよりもダイナミックに見える。その理由を理論的に説明する力は残念ながら筆者にはないのだが、「音」が関係しているのではないかと思う。開床式の桁橋の橋桁は、最小限かつ基本的な桁橋は橋桁の下に何もなく、橋桁の間には空間が生まれる。下から橋を見上げると、枕木が見える。そこを車両が通ると轟音が生じる。鉄が鉄を踏む音が響くのだ。そしてレールの継ぎ目を車輪が越えるときのガタンという音がリズムを刻む。轟音とリズムがダイナミックさを演出していることは間違いない。

 

4.  桁橋との出会い

 桁橋との出会いは筆者4歳の時である。筆者はその頃、大阪府茨木市に住んでいた。阪急電鉄京都線総持寺駅の近くである。総持寺駅の南側にガードがあり、細い道路が線路をくぐるようになっている。そのガードが見事な桁橋なのである。鉄道大好き少年(その頃はプラレール)だった筆者は阪急電車が見える駅前ガード下が好きだったが、轟音を恐れてもいた。轟音への恐れは徐々に無くなったため、桁橋は筆者にとって魅力的なものでしかなくなった。桁橋愛好の始まりである。

 写真からわかるように、件の桁橋は非常に短い。総持寺駅は各駅停車のみ停車の駅なので、急行電車はここをかなりのスピードで走り抜ける。刹那のショータイムである。街中にある桁橋は周囲が高い建物に囲まれていたりするので、列車が突如現れ、去っていく……といったダイナミックさを増幅させる効果もある。一方、各駅停車はゆっくりと橋を渡り、車体をじっくりと披露する。街中の桁橋は日常生活に溶け込んだ劇場のようである。

  

  

  

阪急電鉄 京都線 総持寺駅と桁橋及び阪急9300系電車 (大阪府茨木市 2014.5) 筆者撮影

 

5.  桁橋は模型鉄になる動機

 桁橋は都会のあらゆるところで見られる。桁橋好きの筆者を飽きさせることはない。しかし、筆者は桁橋を眺めているだけでは飽き足らず、桁橋を手に入れたいと思うようになってしまった。少年はなんと傲慢な欲望を持つものだろうか。桁橋が欲しい!という無謀な欲求は筆者を模型鉄にする。傲慢にして無謀な欲望とはいえ子供のそれが導き出した答えはNゲージであった。当時10歳の筆者は仙台に住んでいたが、デパートでNゲージの基本セットを買ってもらう。基本セットでは鉄橋を組み込めないので、トラス橋セットを買ってもらう。そして念願の桁橋を手に入れたのだ。

 製品名は「TOMIX Nゲージ デッキガーダー橋 3008」である。この時初めて、あの魅惑的な橋が「デッキガーダー橋」だと知ったのだが、これは桁橋の主桁が先に引いたように、プレートガーダーと言われることに由来する。デッキとは上路のことで、主構の上に桁がある、つまり通路は主構の上にある橋である。

この他にTOMIXからは「スルーガーダー橋3009」という製品も出ていて、それも買ってもらったのだが、やはりデッキガーダー橋ほど筆者の心をとらえなかったのは言うまでもない。スルーガーダー橋には床版があり、床版と低い壁がある。デッキガーダー橋のように開床式のスカスカ感がなく、両側に壁があるので、印象としての危うさとダイナミック感を演出する音は物足りないように思われる。模型は本物には及ばないのはわかりきったことだが、しかし、その所有意識に筆者は心踊らせ、桁橋特にデッキガーダー橋およびその上を走る模型鉄道を飽きずに眺めていたのである。

  

 

 

TOMIX デッキガーダー橋、スルーガーダー橋 KATO 阪急9300系電車 (自宅 2019.9  筆者撮影

 

6.  自然の中の桁橋

 最後に、筆者が見つけた魅力的な桁橋をご紹介したい。街中の桁橋に魅了され続けた筆者であったが、自然の中のそれにももちろん魅了される。その中でも最も美しいと感じたのは、奥羽本線赤岩駅付近の桁橋である。これは奥羽本線に並走する山形新幹線用の鉄橋である。写真は奥羽本線山形線の車窓(松川橋梁)から撮影したもので、下を流れるのは阿武隈水系の一級河川、松川だ。構造、色、背景のすべてが素晴らしい。上を列車が通過していなくても、危うさと轟音を想像するとわくわくし、桁橋への愛着は一層強まったのであった。

 昨今、開床式より閉床式の鉄橋が増えている。騒音問題や軌道構造の変化によると言われている。鉄道輸送には安全性や環境への配慮が不可欠なのは重々承知しているが、風情のある施設としてデッキ式桁橋が今後も各地で活躍し、ファンを楽しませることを願ってやまない。

奥羽本線山形線 赤岩駅付近山形新幹線用松川橋梁 (赤岩駅付近 2019.9) 筆者撮影

 

5. 参考文献など

1)土木学会関西支部編 渡邊英一他『橋のなんでも小事典:丸木橋から明石大橋まで』ブルーバックスB-881(講談社 東京・1991年)

2)『世界大百科事典22 平凡社 2007年改版新版』 (平凡社 東京)

3)「阪急電鉄 路線図・駅情報」

https://www.hankyu.co.jp/station/ (2019929日閲覧)

4)「トミックス公式サイト」

       https://www.tomytec.co.jp/tomix/ (2019929日閲覧)

 

写真はすべて筆者が撮影し、人物、看板などには加工を施した。


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