コンテンツ

ホームに戻る

簡易線web公開トップに戻る

令和元年五月祭号目次に戻る

日本初の地下鉄環状運転

日本初の地下鉄環状運転

平成30年度入学 篠リマ

 

1.  はじめに

2019324日、インドネシアの首都・ジャカルタでインドネシア初の地下鉄が開通したことは記憶に新しいことだろう。日本が政府開発援助(ODA)で支援し、開発にも日本企業が携わったという鉄道輸出プロジェクトである。開通初日の時点で運賃が未発表という不安の残るスタートではあったが、41日からは営業運転も開始され、ホテル・インドネシア前ロータリー駅(中央ジャカルタ)からルバックブルス駅(南ジャカルタ)区間の15・7キロを結ぶ南北線第1区は成長著しいインドネシアの渋滞緩和に一役買うのではと期待されている。

ところで日本初の「本格的な」地下鉄道、といえば銀座線[1]だが、読者の方々は「日本初の地下鉄環状運転が行われた路線」と聞いて、直ぐに答えが浮かんだだろうか。そう、名古屋市営地下鉄・名城線である。

図1は名古屋市営地下鉄の路線図である。環状であることは図からも一目瞭然だ。

 

図1. 名古屋市営地下鉄路線図。紫色が名城線・名港線である

(路線図|地下鉄|名古屋市交通局より引用)

 

コラム:名古屋市と三重県民の小噺

ここで一度話を脱線し、名古屋市と三重県民の関係について述べておこう。筆者は生粋の三重県民なのだが、筆者の地元での友人はその多くが愛知、特に名古屋に所在する大学に進学した。名城線沿線にも名古屋大学や名城大学など数多くの教育機関があり、筆者の友人にもアクセスの良さを考慮して名城線沿線で一人暮らしをする者が多くいる。

だがこれは大学進学に限った話ではない。三重県民、特に伊勢平野の近鉄名古屋線・山田線沿線で生まれ育った、筆者の世代の人間たちは、幼少期から「都会に家族とお買い物に行く」といえば名古屋にお買い物に行くし、中高生時代「都会に遊びに行く」といったら名古屋一択だったのだ。東京はあまりにも遠いし、大阪、特に梅田に行くには最低1回の乗り換えが生じる。一方で名古屋は近鉄かJRに乗れば名古屋駅まで一本で行けてしまい、特急含め本数も多い。そのうえ、1時間程度と「休日1日を使って行く、ちょっとしたお出かけ」には最適な(個人的見解)距離である。

 以上から名古屋は、伊勢平野に住む三重県民にとっては、少なくとも筆者の周囲においては、「最も近い都会」として、幼少期からなじみの深い都市であったのだ。

 

図2. 近鉄線路線図。松阪~名古屋はおよそ1時間だ

(路線図・停車駅のご案内|近畿日本鉄道HPより引用)

 

2.  名古屋市営地下鉄とは

さて、話を元に戻そう。名古屋市営地下鉄とはなんなのかについて簡単に触れておきたい。

以下、路線名称はすべて現在のものとする。

名古屋市営地下鉄は、戦後復興とともに増加する交通需要への対応策として、大変な混雑に見舞われていた主要交通機関・市電の代わりに1947年に計画された地下鉄路線網が始まりである。当該計画に基づき、1954年に東山線名古屋―栄町(現栄)間約2.4kmの建設工事が進められ、東京、大阪に次ぐ地下鉄は19571115日に名古屋で誕生した。

これ以降、1965年には名城線、1971年に名港線、1977年には鶴舞線、1989年に桜通線、2003年に上飯田線が開業し、さらに同年末には名城線砂田橋―名古屋大学間、翌年同線名古屋大学―新瑞橋間が延長開業(この時点で名城線の環状運転が始まった)。20113月には桜通線野並―徳重間が延長開業し、名古屋の地下鉄ネットワークの拡充が図られている。現在、名古屋の地下鉄は6 路線93.3kmであり、1日当たりの利用客数は約115.5万人、1日の運転キロ数は189,000kmで、これは地球を約4.7周する長さである。

名古屋市営地下鉄は、その「地下鉄」という性質も相まってかバリアフリーへの対応を積極的に進めており、エレベーターによりホームから地上まで移動できるルート及び多機能トイレは全駅で整備されているほか、エレベーターによる改札内乗換ができない駅についても現在乗換エレベーターの整備が進められている。また、視覚障害者用内方線ブロックの整備、車いすスペースを設置した車両の導入等も進められており、全駅に常時1名はサービス介助士が配置されている。

安全面においては、全路線にATC(自動列車制御装置)が設置されているほか、ワンマン運転の桜通線・上飯田線では、乗降車時のホームの映像をホーム又は運転席モニタに映し出し監視することで安全確保に努めている。また、線路内への転落事故や列車接触事故防止を目的として、東山線、桜通線及び上飯田線の全駅に可動式ホーム柵が設置されている。

 

図3. 名古屋市営地下鉄 営業路線の状況・バリアフリー施設等の整備状況

(名古屋市営地下鉄|一般社団法人 日本地下鉄協会HPより引用)

 

そのほか、名古屋市営地下鉄では地下鉄駅の駅長室において名古屋市の住民票の写しと印鑑登録証明書の申請、交付の取り次ぎをするサービスを行っている。名城線・名港線でも、本人確認書類等必要書類をそろえれば大曾根駅・黒川駅・市役所駅・久屋大通駅・矢場町駅・上前津駅・金山駅・伝馬町駅・新瑞橋駅・八事駅・木山駅・東海通駅でそれらを受け取ることができる。

と、ここまで簡単に名古屋市営地下鉄について述べたが、詳しい資料を求める際に役立つと思われるのは『名古屋市交通局 市営交通資料センター』だ。口コミの情報によれば「近隣の某大きな鉄道系博物館は混んでいるが、ここは比較的すいていて運転シミュレーターも使える」「廃線になった市電が展示されている」ようで、穴場な鉄道資料館なようだ[2]

3.  名城線と名港線

図1をもう一度よく見てみよう。名城線のラインカラーは紫だが、金山駅から南西側にまっすぐ伸びる一本の路線もまた、ラインカラーに紫が入っている。名港線だ。

名城線と名港線、この2線は名前こそ異なるものの、一心同体ともいうべき路線である。名城線はもともと単一の環状路線のように見えるが、実は名古屋市高速鉄道第2号線の一部(金山駅―栄駅―大曾根駅)名古屋市高速鉄道第4号線(大曾根駅―八事駅―金山駅)という2つの路線が相互直通して1つの路線を形成しており、2号線金山駅―名古屋港駅部分が名港線なのだ。名城線は時計回りが「右回り」、反時計回りが「左回り」となっており、他の環状線よりも新参者に優しい(!?)呼称となっている。名城線の環状線化に伴って環状部の愛称を「名城線」、枝線部分を名港線とする以前は、大曽根―金山―名古屋港、すなわち2号線の部分を「名城線」と呼び、それ以外の区間は「4号線」と表記していた。

名古屋市営地下鉄も多くの路線と同じく何度も練り直した計画によって整備された。19651015日、現在の名城線の一部である2号線は栄町(現栄)―市役所間で開業したが、この区間は戦時中の1930年代後半(昭和10年代)の計画当初から存在していた[3]。しかし名城線の環状運転構想はかなり先まで行われることは無く、結局構想が実現したのは、(上飯田線に当たるものがないことを除けば)現在の名古屋市営地下鉄の路線網とほぼ変わらない路線網が提出された昭和36年都市交通審議会名古屋部会答申でのこと、つまり1961年、最初の開業のわずか4年前のことであった。

ところで、2004106日に4号線名古屋大学駅から八事駅を経て新瑞橋駅までが開業したことで名城線は名古屋市営地下鉄初の環状線となり、日本初の地下鉄環状運転が開始されたのであるが、同様に「地下鉄の環状線」である都営地下鉄大江戸線よりは「環状線」になった時期は遅い。ではなぜ大江戸線ではなく名城線が「日本初の地下鉄環状運転」の座を得ているのかというと、大江戸線の環状部は都庁前駅でスイッチバック形の配線となっているためである。

ちなみに名城線の始発は5時半頃、終電は0時半頃となっており、一見朝が遅めで夜が早めなようにも思える。しかし都心の路線であることを考えれば妥当[4]ともいえる。大学生や会社員各位には、終電を逃さないよう、早くおうちに帰っていただきたいものだ。

 

4.  鉄道旅客輸送における名城線、或いは環状線に関する考察等

200410月の名城線名古屋大学―新瑞橋間5.6kmの開業により、名城線は全国で唯一の地下鉄環状運転を行っており、他のすべての名古屋の地下鉄路線と交差するとともに、金山、大曽根の主要駅においてJR、私鉄と連絡する等、名古屋の鉄道ネットワークにおいて重要な役割を担っているといえる。

名城線の環状運転化、桜通線の徳重延伸が終了した今、少子高齢化もあり名古屋市営地下鉄においてこれ以上路線が増えたり伸びたりすることは無いだろう。地上を見渡してみれば山手線や大阪環状線、地下に潜れば大江戸線……など、名城線に似た「たくさんの路線をつなぐ」環状路線はたくさんあり、そのいずれもがその地域で重要な役割を担っている。「まっすぐ、とおくへ」物や人を運ぶことだけが鉄道の仕事ではない。むしろ少子高齢化だからこそ、「ぐねぐねまがって、ちかくにも」人を運べる都心の短距離輸送の需要は今後もなくなるどころかむしろ上がっていくのではなかろうか。三大都市圏のなかでも車社会が高度に発達した特異なまち・名古屋の地下に広がる環状線は、東京や大阪にはない魅力を今後も私たちに見せてくれることだろう。

5. 参照文献

MRTJakarta. (2019). MRT Jakarta.

 https://www.jakartamrt.co.id/ 201945日閲覧)

「じゃかるた新聞. (2019). 【MRT特集】交通機関統合・TOD進展へ  駅から考えるまちの形.

https://www.jakartashimbun.com/free/detail/46972.html 201947日閲覧)

「じゃかるた新聞. (2019). 【MRT特集】新しい移動のあり方へ インドネシア初の地下鉄 MRT南北線開通.

https://www.jakartashimbun.com/free/detail/46979.html 201947日閲覧)

「トリップアドバイザー 日本. (日付不明). 名古屋市交通局 市営交通資料センター.

https://www.tripadvisor.jp/Attraction_Review-g298106-d4662713-Reviews-Nagoya_Transportation_Bureau_Exhibition_Center-Nagoya_Aichi_Prefecture_Tokai_Chub.html

201945日閲覧)

「まるはち交通センター. (日付不明). 名古屋の地下鉄建設史~計画の変遷を追う~.http://www.maruhachi-kotsu.com/subline/700hist-index.html 201947日閲覧)

「一般社団法人 日本地下鉄協会. (日付不明). 日本の地下鉄.

www.jametro.or.jp/japan/ 201945日閲覧)

「一般社団法人 日本地下鉄協会. (日付不明). 名古屋市営地下鉄.

 http://www.jametro.or.jp/japan/nagoya.html 201945日閲覧)

「近畿日本鉄道. (日付不明). 路線図・停車駅のご案内.

 https://www.kintetsu.co.jp/railway/rosen/A50001.html 201945日閲覧)

「東京地下鉄. (2019). 新宿駅時刻表 池袋方面.

https://www.tokyometro.jp/station/shinjuku/timetable/marunouchi/b/index.html 201945日閲覧)

「日本経済新聞 電子版. (2019). ジャカルタ初の地下鉄開業 渋滞解消へ日本の官民支援. 日本経済新聞.

 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42845290U9A320C1FFE000/ 201945日閲覧)

「名古屋市交通局. (2019). 名城線・名港線 始発・終発時刻.

https://www.kotsu.city.nagoya.jp/jp/pc/SUBWAY/TRP0000189.htm 201947日閲覧)

「名古屋市交通局. (日付不明). 住民票などの取り次ぎサービス.

https://www.kotsu.city.nagoya.jp/jp/pc/SUBWAY/TRP0000178.htm 201947日閲覧)

「名古屋市交通局. (日付不明). 路線図.

https://www.kotsu.city.nagoya.jp/jp/pc/subway/routemap.html 201946日閲覧)

 



[1] この件に関する諸問題(?)はここでは割愛させていただく。

[2] 筆者は時間と予算の都合で断念した。この場を借りて謝罪する。すみませんでした。

[3] ただし計画当初の段階では2号線は市役所を通るルートであった。将来的に4号線と相互直通環状運転を行う予定であったため、線路の空き容量不足を理由に名鉄瀬戸線との相互直通運転を市が断ったために、名鉄が用意した市役所裏を通る経路ではなく、現在のように市役所を通るルートになったとされている。

[4] 執筆時、丸ノ内線新宿駅の池袋方面は平日の始発が5時、終発が015分である。


inserted by FC2 system