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ウエスタンリバー鉄道

平成30年度入学 岳ヒナ

 

1. はじめに

 みなさんはウエスタンリバー鉄道をご存知だろうか。この鉄道は、東京ディズニーランドのパーク内にあるアトラクションである。今回のテーマ「円環をめぐる鉄道」のとおりこれも環状線ではあるが、簡易線のほかの記事に載るようなものとは違いれっきとした鉄道事業とはいえない。しかし、車両や運行形態などは本格的であり、歴史なども含め日本の鉄道の一つとみなす価値があると考える。鉄道好き、そしてディズニー好きとしてぜひ特集させてもらう。

 

2. 概要

 改めて紹介すると、ウエスタンリバー鉄道とは、東京ディズニーランドのアドベンチャーランドを出発し、ウエスタンランド、クリッターカントリーを経由して一周1.6kmを約12分で走行するライド型のアトラクションである。名前の通り、車両や駅は19世紀の西部開拓時代を再現したものになっている。ディズニーランドのオープン当時からあるアトラクションで、開園当時から現:タカラトミーがスポンサーとなっている。2006年に一旦契約が切れたが、その数か月後に再びスポンサーになった。

 この鉄道の大きな特徴は二つある。一つ目は、模造などではなく本物の蒸気機関車であることだ。燃料は石炭ではなく灯油を使用しているが、実際にボイラーで蒸気を発生させることによって動いている。駅で停車中の時に前方の機関車を見ると、給水塔から給水をしている場面を見ることができる。また、本物の蒸気機関車であるため、運転しているキャストはボイラー技士免許を所持している。二つ目は、三岐鉄道北勢線や黒部峡谷鉄道と同じように軌間が762mm、いわゆるナローゲージであることだ。希少なナローゲージ、しかも蒸気機関車のものが関東圏で乗ることができるという事実は注視すべきだろう。余談だが、東京ディズニーシーにあるディズニーシー・エレクトリックレールウェイも同じくナローゲージである。

 この鉄道は自動閉塞式であり、線路沿いを見ると閉塞信号があることが確認できる。また、駅の降車ホーム側前方には運行状況を示すモニターも設置されている。

 待ち時間は、昼~夕方の混雑する時間帯で20分程度が目安である。30分を超えることはめったにない。午前中や夜などの空いてる時間帯では10分待ち程度になり、待ち時間なしで乗れることもある。待ち時間が発生しているときはキャストが席まで案内するが、並び列がない時はゲストが自由に席を選べることがある。

(左)クリッターカントリーを走るコロラド号(マークトウェイン号32019.02.15

(右)エントランス付近にあるポスター(TDR・ステーション下 2019.03.12

 

3. 環状線となった経緯

 ウエスタンリバー鉄道開業のきっかけは約60年前に遡る。数多くのディズニー作品で成功したウォルト・ディズニーは、映画スタジオの隣にテーマパークの建設を考え、この時からウォルト・ディズニーにはかねてから各エリアを結ぶ鉄道を作る構想があった。というのも、彼は昔から鉄道に造詣が深かったことで知られ、元々はディズニーランドも開拓時代の機関車が走る交通博物館のようなものとして計画していたほどである。実際に、1955年にディズニーランドのオープンと同時にパーク内の4つの駅を結ぶ「ディズニーランド鉄道」がオープンした。

 この28年後、1983年に東京ディズニーランドをオープンする時もカリフォルニアのディズニーランド鉄道と同様に何カ所かの駅間を移動できるアトラクションを建設予定だった。しかし、当時の地方鉄道法では私有地内であっても複数地点を結ぶものは鉄道事業とみなされ、運賃などの設定が必要となるため一駅のみでの環状運転となったものがこのウエスタンリバー鉄道である。

 この地方鉄道法に関していくつか例をあげる。一つ目は、同じく東京ディズニーランド内のファンタジーランド駅(現:プーさんのハニーハント)とトゥモローランド駅(現:トゥモローランド・ホール)の間を、開園から199811月まで結んでいたスカイウェイだ。こちらは複数地点を結ぶものではあるが、ロープウェイであるため地方鉄道法ではなく索道規則が適用され、運賃などの設定の必要がないためアトラクションの一つとして運行された。二つ目は、今年11月に運営が休止となる上野動物園のモノレールだ。このモノレールは、1957年に地方鉄道法に基づいた懸垂式鉄道として開業したものである。東園と西園の二箇所を結んでいる、公道を跨いでいるなどの理由から鉄道事業とされ、運賃などが設定されている。三つ目は、東京ディズニーシーのアメリカンウォーターフロント駅とポートディスカバリー駅を結んでいるディズニーシー・エレクトリックレールウェイだ。

このアトラクションも複数地点を結んでいるが、開業したのは東京ディズニーシーがオープンした2001年である。先ほど紹介した地方鉄道法、索道規則、そして日本国有鉄道法の三つは、1986年に公布された鉄道事業法に統合される形で廃止となり規制が緩和されたため、このような二点間の運輸が可能となっている。

 

4. 車両

 ウエスタンリバー鉄道には現在4台のテンダ―型蒸気機関車があり、コロラド号、ミズーリ号、リオ・グランデ号、ミシシッピ号といったようにアメリカの河川の名前がつけられている。まずはこれらに共通する基本スペックを紹介する。

製造所:協三工業

車軸配置:1B形(2-4-0

軌間:762mm

動輪直径:690mm

機関車重量:10t

炭水車重量:6.5t

 軌間については既にふれたので、ここではそれ以外の点について解説する。製造所である協三工業は、各地の遊園地などで使用されるSLなどを製造している会社である。1991年のミシシッピ号の製造を最後に製造が途絶えたが2011年に再びSLを製造するなどしており、現在では日本で唯一SLを新規製造できるメーカーとなっている。また、車軸配置の1B形は、かつての蒸気機関車でよく用いられた車軸であり、日本の鉄道開業時に使われた1号機関車などがこの車軸配置である。また、これらの機関車の先頭部分にはカウキャッチャーと呼ばれるスカート状の巨大な金属部品が取り付けられている。これは、アメリカ西部において牛などを傷つけないためにつけられていたものを再現している。先頭部分にはスポンサーであるタカラトミーのロゴが描かれている旗も取り付けられている。

 この4台は、それぞれヘッドライトのマークなどが違う。下の表にそれらをまとめた。

 この中で、上の3台は開園当時から走行している車両だが、ミシシッピ号だけは1991年に運行開始した増備車である。そのため、ヘッドライトの形状など一部のデザインがほかの3台とは異なる。

 また、これらの機関車はそれぞれ客車を3両牽引している。この客車は先頭のものが定員44人、後ろ2つが定員48人の計140人となっている。席は進行方向を向いた4人席が並んでいる形になっているが、それぞれの客車の一番前だけは進行方向と逆を向きボックス席状になっている。多人数のグループはこちらに案内されることが多い。

コロラド号の拡大写真(マークトウェイン号3 2019.02.15

 

5. 駅及び沿線

 改めて紹介すると、ウエスタンリバー鉄道はアドベンチャーランドの中心部にあるアトラクションである。駅舎をジャングルクルーズの乗船口と共有していて、ウエスタンリバー鉄道のホームは二階にある。階段で二階に上る途中で二手に分かれているが、これは乗車の時に2カ所の入り口を使うことによってスムーズに乗車するためのものであり、基本的にはどちらに行っても同じ列車に乗ることができる。この駅舎は西部開拓時代のものを再現したものであり、駅長室などは中の細かいところまで作りこまれている。

 駅を出発するとまず進行方向左側に駅の隣にある給水塔が見える。こちらは先ほども述べたように実際に利用されているものである。出発後すぐに、声優の青野武さんによるナレーションが流れ始め、乗車中の注意事項、機関車の紹介などがされる。また、進行方向左側にはここから一周して終点に行くまでにいくつか二灯式の閉塞信号を見ることができ、右側には速度制限標識のようなものもある。

 

(左)スプラッシュ・マウンテン付近にある二灯式信号(ウエスタンリバー鉄道車内 2019.02.15

(右)速度制限標識らしきもの(ウエスタンリバー鉄道、終着駅手前 2019.02.15

 

 アドベンチャーランドを抜けてウエスタンランドに入ると、右側にここでも西部開拓時代を再現した駅舎を見ることができる。これは「スティルウォーター・ジャンクション」という通過駅でありもちろん停車はしないが、カブース、つまり列車にブレーキをかけるための装置が取り付けられている緩急車が置かれ、古いレールや枕木、給水塔などもある。また、駅構内も精巧に再現されている。この駅の先では崩れた石垣を古い枕木で補強する展示などもみられる。

スティルウォーター・ジャンクション駅舎(ウエスタンリバー鉄道車内 2019.02.15

 

 この駅のすぐ手前、左側を見ると踏切の遮断機があることが確認できる。この踏切は再現などではなく実際に使われているものであり、東京ディズニーランドの外周を囲んでいる運搬用道路と内部をつなぐ踏切である。機関車の中からトラック等が見えないように、踏切のかなり手前に一時停止線がある。

 

(左)踏切の進行方向右側 この先はポリネシアンテラス・レストランの裏手へ続く

(ウエスタンリバー鉄道車内 2019.02.15

(右)業務用道路にある看板 「列車通過時通行」という文字が見える

(イクスピアリ前、ウエスタンランド裏側 2019.03.12

 

この先、右側にいるプレーリードッグの群れの紹介が始まるあたりで、左側に引き込み線、そして進行方向とは逆向きにつけられた推進運転用の信号が見える。これはオリエンタルランド本社のすぐ横にあるウエスタンリバー鉄道の車庫につながる引き込み線で、入庫するときはこの分岐の先まで進み、進行方向を逆にして進む。車庫は3編成分のものと1編成分のものが隣接する形になっているが、これは先述の通りもともと3編成だったのがミシシッピ号の増備により増えたからである。

ウエスタンリバー鉄道の引き込み線(ウエスタンリバー鉄道車内 2019.02.15

 

さらに先に進むと、左側にビッグサンダーマウンテンが見えるところで右側にもう一つ「DUSTY BEND DEPOT」と書かれた通過駅を見ることができる。この駅はアナウンスなどでの案内がないが、鉱山であるビッグサンダーマウンテンの目の前にあることから鉱物の貨物駅という設定があると考えられる。また、この右側は実際にはキャンプ・ウッドチャック・キッチンの裏側であり、その建物を隠す目的で設置されていると思われる。

ダスティベンド・デボ駅舎(ウエスタンリバー鉄道車内 2019.02.15

 

 トンネルに入る手前には通称“ジュラシック・ツリー”と呼ばれ、世界最古の種子植物とされるウォレマイ・パインが植えられている。これは2004年の浜名湖花博での展示が寄贈されたものであり、トンネル内で恐竜の展示があることにちなんでこの場所に植えられた。

 

6. おわりに

 ウエスタンリバー鉄道は、鉄道マニアであったウォルト・ディズニーの意志を引き継いだものであり、ディズニーリゾートならではのアトラクションに対するこだわりがより強くみられるアトラクションである。ディズニーリゾートは情報を非公開にする傾向が強く、ウエスタンリバー鉄道も例外ではないためそのこだわりに気づきにくいが、そのようなこだわりを意識することで鉄道としても、アトラクションとしてもより一層楽しめるだろう。

 

7. 参考文献

『鉄道ファン 19887月号』(交友社・1988年)

「【公式】東京ディズニーランド ウエスタンリバー鉄道」

https://www.tokyodisneyresort.jp/tdl/attraction/detail/154/201949日閲覧)

「東京ディズニーリゾート・ブログ」

https://www.tokyodisneyresort.jp/blog/150714/201949日閲覧)

「ディズニーランド混雑予想カレンダー リアルタイム待ち時間」

http://www15.plala.or.jp/gcap/disney/realtime.htm201948日閲覧)

「ディズニーリゾートキャスティングセンター メンテナンスキャスト」

https://www.castingline.net/disney_jobs/maintenance.html2019410日閲覧)

「上野動物園モノレール」

https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/other/monorail/201948日閲覧)

「福島民報 SL20年ぶりに完成 福島市の協三工業」

https://web.archive.org/web/20130127145648/http://www.minpo.jp:80/news/detail/ 2013012361812019410日閲覧)

 

*写真は(特記以外)全て筆者が撮影した。


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