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路面電車における環状運転

平成29年度入学 京キチ 

 

 今年の五月祭展示テーマは「円環をめぐる鉄道」である。鉄道用語で「環」が使われるものといえばやはり環状線ではないだろうか。環状線といえばやはり東の山手線と西の大阪環状線、さらには大江戸線や名城線といった地下鉄路線も挙がってくる。しかし、それだけではなく、路面電車にも環状運転を行うものが存在する。本稿では、日本で環状運転を行う路面電車を取り上げ、それらについて路線の成り立ちや運行状況、今後の展望などを述べる。

 

1.   路面電車での環状運転

 現在、日本で環状運転が行われているのは、札幌市電、富山地方鉄道富山都心線、伊予鉄道市内電車の3路線である。かつて、大都市における路面電車には循環系統が存在していたところもあった。例えば、京都市では、市内中心部で走っていた市電の循環系統を、そのままバスが引き継いで循環運行を継続しているものがある。しかし、それらはモータリゼーションの進展とともに次々と廃止されてしまった。

 さて、現在環状運転を行う3路線であるが、昭和の時代から環状運転が行われているのは伊予鉄道のみで、他の2路線は20世紀すら経験していない新しい路線である。路面電車は、普通路線に比べて設備が簡単で済むものが多く、また環境優位性などが認められて新線開業が相次いでいる。その中で新たな環状線が誕生することとなった。

 

2.   札幌市電

 札幌市電は、かつては他の大都市と同様に多くの路線が運行されていた。しかし、時代の波にのまれるように廃止が進み、1973年以降は西4丁目~すすきの間のC字型路線のみが残った。西4丁目とすすきのの間は徒歩でも移動できる距離であったが、2015年にC字の開いている部分にあたる西4丁目~狸小路~すすきの間に線路が新設され、環状運転が開始されることとなった。つまり、この区間だけが他と比べてかなり新しいということになる。

この一周の環状線であるが、正式名称は区間ごとに分かれている。西4丁目~西15丁目までが一条線、西15丁目~中央図書館前が山鼻西線、中央図書館前~すすきのまでが山鼻線、そして延伸開業部分である、すすきの~西4丁目が都心線となっている。運行形態は、外回りと内回りに分けられており、折り返しを伴わない完全な環状運転であるが、朝ラッシュ時には西線16条~西4丁目の区間で、線内の折り返し運用が設定されている(西4丁目止まりは、折り返して西8丁目始発の区間便となる)。出入庫は両方向とも中央図書館前停留所で行われている。

環状運転開始直後は利用客数が10%以上増加し、ループ化の効果はあったといえる。市の調査によれば、市民がより路面電車を利用するようになった理由としては、すすきの~西4丁目間を歩かなくてよくなったという意見が5割近くを占めたほか、狸小路停留所の開業によって利用が増加したという面もあるようである。狸小路停留所は市内でも有数の繁華街である狸小路商店街の入り口に面しており、それまで西4丁目(または地下鉄大通)かすすきのから歩く必要があった場所に直接行くことができるようになったのが利用者の心を掴んでいるのだろう。車両面については、環状運転開始後も、従来使用されていた車両が継続して使用されているが、環状線開業の2年前には札幌市電初の低床連接車であるA1200形「ポラリス」が登場し、低床化による利便性の向上や定員増加による混雑緩和に貢献している。

 

札幌市電 3300形で運行される内回り循環(201799日 すすきのにて)

今後は、JRの駅方面を中心に複数の延伸計画が報じられているが、時期などが明確に示されているものはまだない。北海道新幹線の札幌延伸が計画されている中で、市内交通がさらに発展する可能性もあり、この環状線から路線網が拡大していく可能性も十分ある。

 

3.   富山地方鉄道富山都心線

富山地方鉄道は、富山市内を走る路面電車(市内電車)と富山市街から立山や宇奈月温泉を結ぶ鉄道を運行している。市内電車の環状線は、2009年開業と、比較的最近にできた路線である。かつては市内に多くの路線を運行していた地鉄であったが、2009年の環状線開業時点では、南富山駅前から富山駅前を経由し、大学前へ向かう路線で、南富山駅前~富山駅前間の1系統と、全線を通して運行される2系統のみとなっていた。

 

 

左上:環状線専用車両の9000形「セントラム」。右写真のTLR0600型とほぼ共通設計(2017.8.25 地鉄ビル前)

右上:富山ライトレールTLR0600形(2017.8.25 牛島町交差点)

下:環状線を代走するT100形「サントラム」(2017.8.25 富山駅停留所)

そんな中で持ち上がったのが環状線の建設計画であった。これを打ち出したのは富山市である。2006年に開業した富山ライトレールに続くプロジェクトとして、市内中心部の繁華街を通る環状線の建設が決まったのである。ルートは、既存の路線を短絡するような形で決められ、また反時計回りの単線で開業することとなった。この路線は上下分離方式で建設され、線路や信号、車両などの設備所有、および開業後の保守管理は富山市が担当し、地鉄は運行を委託されているという形になっている。このことは運用車両にも影響しており、環状線の開業と同時に導入された新型車両9000形「セントラム」は富山市の所有となっている。この車両は、将来の富山ライトレールとの相互乗り入れを見込んで、ライトレールに既に導入されていたものとほぼ同じものである。市が所有する車両であることもあり、出入庫を除いて原則環状線専用で運用されている。環状線は基本的にセントラムのみで運行されるが、検査などの都合上、地鉄のT100形「サントラム」が代走することもある。

 

富山駅停留所で折り返す環状線の電車。現在は既に奥の壁が取り払われ、在来線高架下でライトレール側の新電停の工事が進んでいる

2017826日 富山駅停留所にて)

さて、先ほども触れたが、この路線は富山駅を挟んで北側に伸びる富山ライトレールとの相互乗り入れが計画されている。まずは、2015年の北陸新幹線の金沢開業に伴って、地鉄の市内電車に富山駅停留所が新設された。従来はJRの富山駅と平行に駅が設置されていたが、富山駅停留所は駅ビルの内部に、駅に刺さるようにして設けられたため、環状線はここで折り返して運転する形態となった。この停留所の変更は直通を見越したものであり、この停留所から新幹線やあいの風とやま鉄道の線路の下を通って北側に抜けるルートとなっている。既に新幹線、在来線の高架化は完了しており、市内電車とライトレールの相互乗り入れは来年3月に開始される予定となっている。現在は直通運転の開始に向けて、ライトレール側の整備が行われている。また、直通運転の開始後は地鉄がライトレールを吸収合併し、運行を一元的に管理することが決まった。直通運転といえば各社の運賃を支払わないといけないため割高に感じられることがほとんどであるが、この合併により全線均一運賃となり、利用促進に大きな効果をもたらすことが期待されている。

 

4.   伊予鉄道市内電車

 

左:時計回り循環の1系統 右:反時計回り循環の2系統

2018316日 左:大手町駅前にて 右:大街道にて)

 

伊予鉄道も、富山地方鉄道と同様に市内を走る路面電車(市内電車)と郊外を結ぶ郊外電車を運営している。その中で、環状線となっているのは市内電車の1系統(下り・時計回り)、2系統(上り・反時計回り)である。この路線は、これまでの2路線とは違い、1969年に環状運転を開始した歴史ある路線である。正式には、環状線をなす部分は古町~平和通一丁目の城北線、平和通一丁目~西堀端の城南線(連絡支線含む)、そして西堀端~古町の大手町線に分かれている。このほか、南堀端~松山市駅の花園線があり、1系統、2系統ともに松山市駅を起終点としているため乗り入れている。

 

大手町のダイヤモンドクロッシング。高浜線の電車が市内電車の線路を横断する(2018316日 大手町駅前にて)

この環状線は、区間ごとに大きく雰囲気が異なっておる。城南線の区間は県庁や市役所、松山城をはじめとした観光施設や大規模商業施設が集中しており、市民や観光客が多く利用している。大手町線の区間は、鉄道ファンにとって堪らない場所がいくつかある。最も有名なのは大手町のダイヤモンドクロッシングであろう。ダイヤモンドクロッシングとは線路同士が直交する場所のことであり、全国に残っているのはここの他に名鉄築港線と土佐電気鉄道のみである。特に、路面電車と郊外電車が交差しているのは全国でもここだけであり、路面電車が郊外電車の踏切待ちをする光景は伊予鉄道の名物となっている。今では全国唯一の場所で、路面電車が郊外電車の踏切待ちをしている光景は伊予鉄の名物となっている。

また、少し北にある古町では駅構内で再び郊外電車と平面交差している。この駅はホームの乗り換え便宜が図られるなど、伊予鉄の拠点駅として機能している。また、市内電車と郊外電車両方の工場、車両基地が設置されており、郊外電車のすぐ隣に市内電車の車両が留置されている光景を見ることもできる。この2回の平面交差のために、この区間を走る郊外電車(高浜線)は路面電車のために他路線と異なる電圧(直流600V)採用している(ただし車両は共通)。古町から北側の城北線は、その名の通り松山城の北側に広がる住宅地や愛媛大をはじめとする学校密集地帯を結んでいる。住宅地の間を縫うように走り、途中駅では対向電車との行き違いを行うなど、市内中心部とはまた一味違った雰囲気を味わうことができる。使用車両は特に固定されていないが、他系統に比べると旧式の車両が多いように見える。伊予鉄道には低床車も導入されているが、観光路線である、JR松山駅前や松山市駅と道後温泉を結ぶ系統に新型の低床車を集中的に充当しているようだ。

 

高架化の予定があるJR松山駅。市内電車の駅前乗り入れも計画されている(2018316日 JR松山駅にて)

さて、松山は富山と同じく路面電車導入に積極的な都市であり、この都市でも延伸計画が持ち上がっている。これは、JR松山駅の高架化に伴う駅の高架下への乗り入れ、さらに松山駅から西側にある松山空港までの延伸である。実現すれば、おそらく松山市駅と結ぶ系統が新設されることとなるだろうと思われるが、環状線に変化があるのかどうか、注目していただきたい。

 

5.   参考文献等

・『歴史でめぐる鉄道全路線 公営鉄道・私鉄 11号、16号、19号』(朝日出版社)

・「札幌市路面電車ループ化後の状況について」

https://www.city.sapporo.jp/st/bukai/documents/bukai_h28_5_01_hosoku01.pdf 2019514日閲覧)

・「富山路面電車南北接続|鉄道計画データベース」

https://railproject.tabiris.com/toyama.html 2019514日閲覧)

・「伊予鉄道松山市内線延伸|鉄道計画データベース」

https://railproject.tabiris.com/iyotetsu.html 2019514日閲覧)

*写真は全て筆者が撮影したものです。


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