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山万ユーカリが丘線

平成29年度入学 横ナハ

 

1.始めに

 東京都心から京成に乗って一時間余り、千葉県佐倉市に何やら奇抜な名称の街がある。その名も「ユーカリが丘」。1970年代から開発が進められている、いわゆるニュータウンである。

 「つつじヶ丘」「百合ヶ丘」など似たような名称の街は存在するがそこで何故ユーカリをチョイスするか・・・といった疑問は置いておこう。この街にはある新交通システム(AGT)が通っている。れっきとしたAGTではあるが、「新交通」と呼ぶには余りに年季の入った鉄道、それこそが山万ユーカリが丘線である。

 

2. ユーカリが丘線とは

2. 1. 「ユーカリが丘」という街

 ユーカリが丘線についてお話する前に、「ユーカリが丘」という街についての説明をしなければならないだろう。というのも、その名が示すように「ユーカリが丘線」という路線はこの街とは切り離せない関係にあるからである。

 ユーカリが丘とは、株式会社山万が事業主体となって、1971年より千葉県佐倉市内に開発され、1979年に分譲が開始された、いわゆるニュータウンである。昨今、住民の高齢化などの要因で衰退するニュータウンが多い中、ユーカリが丘は、年間の分譲戸数の制限などの手法によって現在もなお持続的な発展を続けている。

 さて、そんなユーカリが丘の住民の足として1978年に建設が開始されたのが、ユーカリが丘線である。この、全長およそ4 kmの小さな路線に秘められた魅力を追っていきたい。

 

2.2. ユーカリが丘線の特徴

 ユーカリが丘線は、山万が運営する新交通システム(AGT)である。198211月にユーカリが丘-中学校間2.7kmが部分開業、19839月に前線が開通した。AGTとしては、日本で三番目にできた路線であり、民間では初めての実用化路線となる。

 ユーカリが丘線のAGTとしての特徴では、その案内方式が挙げられる。新交通システムが従うレールを案内軌条と呼ぶが、この構造の種類を案内方式という。一般的な新交通システムでは、側方案内方式という方式が採用されている。これは、側壁に案内軌条を設置し、それに沿ってゴムタイヤが回転するという方式である。一方、ユーカリが丘線では、中央案内方式(VONA)という方式が採用されている。これは、車両下中央に案内軌条を設置し、それをゴムタイヤで挟み込むという構造になっている。日本でVONAを採用した路線は、ユーカリが丘線の他に桃花台新交通桃花台線が存在したが、あちらは2006年に廃線となっている。現在ではユーカリが丘線のみがVONA方式で運行されている。

 鉄道としてのユーカリが丘線では、その風変わりな運転形態が目を引く。起点のユーカリが丘駅を出発した車両は、地区センター駅を経て公園駅に到着する。公園駅の直前に分岐点があり、ここで列車は東側に向かう。その後、女子大駅、中学校駅、井野駅を経てユーカリが丘の街中を一周し、列車は公園駅に戻ってくる。そのまま始めに通った線路を逆走し、再びユーカリが丘駅にたどり着く。公園駅付近を除いて線路は単線であり、完全な一方通行で運行されている。このテニスラケット型の風変わりな環状運転が、ユーカリが丘線の何よりの特徴であろう。

1.ユーカリが丘線路線図(ユーカリが丘 公式タウンポータルサイトより引用)

ユーカリが丘線1000形(中学校駅 2019.03.07

 

 車両は、開業時から1000形が用いられている。三編成が在籍しており、それぞれに「こあら1号」〜「こあら3号」の愛称がつけられている。3両編成で、1両の長さはおよそ9mと極めて短い。独特の丸みを帯びた形状と合わせて、その姿は「イモムシ」のようである。車内はオールロングシートで、扇風機はあるものの開業時から現在まで全車両非冷房である。

 運賃はどの駅から乗車して下車しても一律200円となっている。交通系ICカードの類は使用できず、切符を購入する必要がある。

 

3. 各駅紹介

 この章では、ユーカリが丘線の各駅を、筆者が実際に訪れた感想も含めてご紹介しよう。わずか6駅ではあるが、そのどれにも独特の味わいがあり、楽しむことができた。

3. 1. ユーカリが丘駅

ユーカリが丘駅入口(ユーカリが丘駅 2019.03.07

 

 当駅は、ユーカリが丘の玄関口であり、ユーカリが丘線唯一の他社線との接続駅となっている。おそらく、ユーカリが丘線に乗車した住民はほぼ全員が当駅を目指すものと思われる。実際、筆者が乗車した際も、(平日の日中であったとはいえ)途中駅で下車する乗客は皆無であった。

 接続先の京成電鉄では、最速達種別の快速特急、及びそれに次ぐ特急は停車しないが、通勤特急及び快速は停車する。日暮里までは最速50分で結ばれている。

 駅前には大型のショッピングセンターの他、映画館、ホテルなどが存在する。

駅前のショッピングモール「ユーカリプラザ」(ユーカリが丘駅 2019.03.07

 

3. 2. 地区センター駅

地区センター駅入口(地区センター駅 2019.03.07

 

 ユーカリが丘駅を出発した列車は、一旦西へカーブした後北上し、そのまま地区センター駅に到着する。何やら建物の名前の駅名のようだが、付近に「地区センター」という建物は見当たらない。おそらく、そのまま「地区の中央」という意味でこの名が付けられたものと思われる。

 その名の通り、ユーカリが丘の中心的な施設であるイオンタウンユーカリが丘に直結している(正確には駐車場を経由する必要があるが)他、近くには高層マンション「スカイプラザ・ユーカリが丘」や娯楽施設も多い。

 

3. 3. 公園駅

公園駅入口(公園駅 2019.03.07

 さて、この辺りからユーカリが丘線の駅名はシンプル・・・を通り過ぎてもはや適当なレベルに達してくる。ユーカリが丘線三番目の駅は、その名も「公園駅」。「〜公園」なる駅名は日本全国至る所にあるが、単純な「公園」という名を持つのは当駅のみである。駅名の由来は、おそらくホームからも見える「ユーカリが丘南公園」で、ユーカリが丘の中心部からもほど近い、住民の憩いの場となっている(らしい)。

 駅としての特徴としては、当駅がユーカリが丘線の環状部と枝線部の境界となっていることがある。線路は当駅付近のユーカリが丘駅寄りで分岐するため、当駅はユーカリが丘線で唯一の島式ホーム12線の構造である。

 

(左)ホームから公園を見る(公園駅 2019.03.07

(右)分岐点(公園駅 2019.03.07

 

3. 4. 女子大駅

女子大駅入口(女子大駅 2019.03.07

 

 ある意味でユーカリが丘線で最も知られている駅名かもしれない。「女子大」というシンプルかつ印象深い駅名。それでいて駅周辺には女子大が存在しないという矛盾(一応、駅前には和洋女子大学佐倉セミナーハウスなる施設はある)。

 駅名以外に特筆すべき点としては、当駅に隣接して山万の車庫がある。ユーカリが丘線1000形の他、山万が運営するバスの車両もこの車庫に留置されている。

ユーカリが丘駅から高架を走った車両は、当駅手前で地上に降りる。ここから井野駅までは地上を走る。

山万の車庫。ピンクの車は山万が運営するコミュニティバス「ここらら号」。(女子大駅 2019.03.07

 

3. 5. 中学校駅

中学校駅入口(中学校駅 2019.03.07

 

 「公園駅」「女子大駅」に続くシンプルな駅名シリーズその3。その名も「中学校駅」。駅名の由来は、当駅西側にある「佐倉市立井野中学校」か。

 駅周辺には閑静な住宅街が広がるほか、当駅はユーカリが丘線で北端の駅であり、ユーカリが丘の中心部までは最も遠い。そのためか利用者の数が他の中間駅と比べても多く、ユーカリが丘線内ではユーカリが丘駅に次いで第二位となっている。

 

3. 6. 井野駅

井野駅入口(井野駅 2019.03.07

 

 最後に紹介するのは井野駅である。これまでシンプルor奇抜な駅名ばかりであったことを考えると、だいぶ普通な駅名に思える。

 中学校駅に続いて、こちらも閑静な住宅街の中に位置している。駅の入り口は付近のマンションの出口と半ば一体化しており、一見すると駅だとは気がつかない。

 

4. 終わりに

 いかがだっただろうか。ユーカリが丘線は、19839月の全線開業以来、車両の更新等の大きな変化もなく、その車両さながら「ゆっくり」と歩んできたように見える。逆に言えば、大きなアクシデントのない安定した歩みだとも言える。実際、2014年には、開業以来32年間無事故運転を達成したことにより、関東運輸局長表彰を受けている。車両に関して言えば、先ほど述べたように国内で唯一の方式を採用しているが故に、新車の導入は難しいだろう。

 一周20分足らず、地域の住民以外日常で使うことはまず無い小さな路線。今後もおそらく大きな変化は無いものと思われる。しかしそれは、ユーカリが丘という街の持続的な発展により裏付けられたものでもある。この街の今後の平穏を願いつつ、少々遠出をして乗車してみるのもいいだろう。

 

5. 参考文献

『鉄道ファン 20148月号』(交友社)

『日経産業新聞 201936日号』(日本経済新聞社)

上浦正樹・須永誠・小野田滋『鉄道工学』(森北出版・2000年)

『千葉県統計年鑑(平成29年)』(千葉県知事部局本庁総合企画部統計課・2018

「山万株式会社」

http://www.yamaman.co.jp201947日閲覧)

「ユーカリが丘 公式タウンポータルサイト」

http://town.yukarigaoka.jp201947日閲覧)

「新交通システム」

http://www.jtpa.or.jp/contents/agt/index.html201947日閲覧)

 

写真は全て筆者が撮影した。


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